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映画評「柘榴坂の仇討」 ~ぜひ多くの人にご覧いただきたい傑作~ [映画評]

週末は、「るろうに剣心」でも観に行こうと思っていた。
しかし、日本経済新聞の金曜夕刊に毎週掲載されている映画評で、本作が高く評価されていたので、なんとなくこちらへ。
もしこの日経の映画評を読まなかったら、本作に出会わなかったかも知れない。
そう思うと、日経に感謝である。
日経を購読していてよかった。
解説を書かれていたのは、白井佳夫さんという映画評論家の方。
正直、よく存じ上げないが、この方にも感謝である。
この映画を上映していた映画館にも感謝である。
それほど素晴らしい作品だった。

内容は、タイトルが「柘榴坂の仇討」であるように、仇討の話である。
しかし、忠臣蔵とは大きく違う。
バッタバッタと切り伏せるクライマックスがあるわけではない。
忍従が昇華するエクスタシーがあるわけではない。
仇討を試みるのはたった一人、しかも時代は江戸から明治に切り替わる。
主人公を動かすのは、恨みや怨念ではなく、ひたすら主君への思慕である。
また、あの日への悔いでもあろう。

失った主君は、井伊直弼。
元彦根藩主である。
彦根は私の出身地であり、ひいき目もありで、直弼は直弼でやるべきことをやったのだと考えているが、「安政の大獄」により吉田松陰など幕末の志士を大量に処刑したことで、一般的には非常に人気がない。
映画やドラマ、小説などでは、坂本竜馬や西郷隆盛、高杉晋作などの幕末のヒーローの敵役として描かれることがほとんどであろう。
しかし、本作では、直弼の人間的な魅力についてもきっちりと描かれていた。
そして、主人公との温かい関係も。
このつながりが、物語の説得力を支えている。

主人公を演じるのは、中井貴一さん。
抑えた演技で、主人公の苦悩と誇りを伝えてくれる。
中井さんを支える妻の役を務めたのが広末涼子さん。
現代の価値観からすれば理解が難しい面もある、ひたすら支える女性を、こちらも抑えた演技で見せてくださる。
仇討の対象となる水戸浪士の生き残りを演じるのが阿部寛さん。
普段のコミカルな演技とは対照的な男くささだった。

きっと浅田次郎さんの原作がよいのだろうと思う。
人の琴線をよくご存じな作家さんである。
しかし、いい原作から必ずしもいい映画が生まれるものではない。
監督の若松節朗さんは、大きな仕事を成し遂げられた。
本作は、金字塔である。
脚本は、三人の方の共同ということであるが、最後まで緊張感の途切れないよいシナリオであったと思う。
中井さんと広末さんの夫婦だけではなく、阿部さんと、近所に住む女の子とその母との関係も美しく、最後、ぐっと来るシーンがある。
それまでの流れが、ラストに生きてくる。

観終わった後、いろいろなことに感謝したくなるような気持ちになった。
日々の小さなことに心動かされながら、静かに、しかし懸命に生きていきたいなどと、考えたりした。
映画を観ながら、「早く終わらないかな」と思うことが多いのだが、この映画はずっと続いてほしい気になった。
観終わった直後より、しばらくしてから一層こみあげてくるものがあった。

プロモーションが非常に弱く、きっと大ヒットすることのない作品であろう。
しかし、ぜひ多くの人に観ていただきたい。
エンタテインメントとして十分に楽しめることはもちろん、それ以上のものを得られると思う。

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