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映画評 「ドライブ・マイ・カー」 [映画評]

カンヌ国際映画祭で、日本映画として史上初となる脚本賞を受賞したことで話題の本作。
監督は、「ハッピーアワー」「寝ても覚めても」の濱口竜介さん。

上映時間は179分という長尺。
私は、「映画大好きポンポさん」が語るように長い映画は好きではないのだが、
本作はきちんと積み上げられていて、最後まで集中して観続けることができた。
ドッカンドッカンとしたアクションがあるわけではないし、
サスペンスも恐怖も笑いもないのだが、
濃密な時が流れていく。

村上春樹さんの小説が原作で、
映画の世界観や会話もそれっぽい。
都会に暮らす、
知的水準も経済水準も高い人たちの物語。
見る人によっては辛気臭い話かもしれない。
村上さんの作品は、喪失がテーマになっていることが多いが、
これもそんな感じである。

この作品が説得力を持つためには、
映画の序盤で亡くなってしまうものの、全体を支配する力を持つ、
主人公の妻の存在がしっかりしていないといけない。
霧島れいかさんは、その美しさで観るものをスクリーンに引き込み、
内面からにじみ出る強さ、はかなさ、どうしようもなさではじき返した。

また、謎の運転手として登場する女性が陳腐であっては台無しなのだが、
三浦透子さんが見事に演じられていた。
サントリーのCM「なっちゃん」で2代目なっちゃんとしてデビューされた方らしい。
そう言われてみれば。

不倫について、どう受け止めるべきか登場人物が悩む。
そして、一つの解釈が提示される。
それは不倫を肯定するものではないにしても、
理解できるものとして描かれる。
濱口竜介監督は、前作「寝ても覚めても」でも特異な愛の形を描かれた。
「寝ても覚めても」では、主演の東出昌大さんと唐田えりかさんが実生活でそういう関係になられ、社会的に大きな批判を浴びたが、
悪いとわかっていてもどうすることもできないこともあるだろう。
割り切れるものではないということを、本作も伝えてくる。

映画の中で、演劇の舞台が作られていく。
オーディションからセリフの読み合わせ、舞台稽古と段階を踏んで。
劇中劇と本筋のストーリーが微妙に絡み合って。
巧みである。

「Drive My Car」というフレーズにはセクシャルな意味があり、
映画全体にどことなくそうした空気が漂うが、色濃くはない。
しっとりとした時の流れに映画もたゆたう。

「ドライブ・マイ・カー」は、練り上げられた人間劇。
カンヌでの脚本賞も納得。
芸術の秋に観るのにぴったりの作品である。
大人向けだが、
若者が少し背伸びして観るのもいい。

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