映画評 「空白」

「ヒメアノ～ル」の、という紹介をされることの多い吉田恵輔監督の作品。
個人的には「犬猿」という映画がお気に入りである。
今年公開された「BLUE/ブルー」という映画もよかった。

吉田監督の映画を観に行くには、それなりの覚悟を持ってスクリーンに向き合う必要がある。
容赦がないからだ。
ハッピーエンドも期待できない。
ひたすら緊張感にあふれる描写が展開され、画面から目が離せない。

本作をざっくりまとめると、
スーパーの店長に万引きをとがめられ、逃げ出した女子中学生が車にひかれて死亡する。
その死をめぐり錯綜する、被害者の父親と事故に関わる人々の姿を描写する。
というもの。
父親は娘と良好な関係を築いていたわけではないが、
むしろそれがゆえにか、父親は事故の関係者を追い詰め、周りを皆不幸にしていく。
万引きをとがめて追いかけた結果事故を招いたスーパーの経営者は、
この父親からの追求やマスコミによる意図的なバッシング報道により、出口のない深みにはまっていく。

父親を演じる古田新太さんが強烈。
延々と人をなじるシーンが続くので、観るのに耐えられなくなる人もいるのではないか。
追い詰められるスーパーの経営者を松坂桃李さんが演じる。
「孤狼の血」「新聞記者」「蜜蜂と遠雷」「あの頃。」と様々な役を演じておられる松坂さん。
俳優として脂が乗っている。
片岡礼子さん演じる切ない母親、
寺島しのぶさん演じる善意を押し売る人、
田畑智子さん演じるまっとうな女性、
といった存在が、映画を説得力のあるものに高めていく。

悲劇が悲劇を呼び、
事件にかかわった誰もが不幸になっていくような展開になるが、
最後に救いのようなものもある。
ハッピーエンドではないが、物語にしっかりけりが付いている。
吉田恵輔監督、さすがである。

「空白」は、観るのにしんどいが、観る価値のある映画。
タイトルの意味は、それぞれが感じ取るべきなのだろう。