SSブログ

映画評 「マイスモールランド」 ~ 是非多くの人に観てほしい。刺さるテーマ、いい脚本いい演出いい演技いい映画 ~ [映画評]

いい映画が生まれるためには、いくつもの奇跡が必要だと思う。
劇場に足を運ぶ映画ファンは、その奇跡を目撃することを祈るが、多くの場合はかなわない。
しかし、まれに、ごくまれに、奇跡に立ち会うことができる。

本作は、その奇跡が生まれた稀有な作品。
川和田恵真監督の商業映画デビュー作。
是枝裕和監督のもとで鍛えられた精鋭であるらしい。
⽇本⼈の⺟とイギリス⼈の⽗を持つ女性監督で、おそらくその出自が本作に活かされている。

舞台あいさつにおいて、恩師の是枝監督からの手紙が披露されたそうだ。
それがとてもいいので引用させていただきたい。

「この映画が難民問題を扱いながら、青春映画としても成立していることを僕はとても素晴らしいと思っていますが、それはあなたの“海図なき航海”という、まさに青春そのもののような映画作りという旅に同行してくれた2人(嵐莉菜と奥平大兼)がいてくれたからこそだと思います。
その仲間たちと、今日は作品のお披露目を心から喜んでください。祝ってあげてください。
明日からは、あなたにとって、このデビュー作が最大のライバルになります。強敵ですよ。
また長い旅が始まります。頑張ってください」

難民問題という、重く難しいテーマを、
監督デビュー作にしてオリジナル脚本で撮り、
しかも多くの出演者もほぼ映画経験なし、という試みは、
是枝監督がおっしゃるように、まさに「海図なき航海」。
あまりにも無謀過ぎて、笑ってしまうほどだ。
成功するとはとても思えない。
しかし彼女は成し遂げた。

厳しい現実を描きながら、よどみなく破綻なく容赦なく物語を進める脚本が素晴らしい。
自然に撮りながら、胸に突き刺す演出が素晴らしい。
まるで実在の人物であるかのように思わせる出演者たちの演技が素晴らしい。

主演は嵐莉菜さん。
ViViの専属モデルをされている方であり、今回が映画初出演。
母親が日本人とドイツ人のハーフであり、父親が日本国籍を取得しているイラクやロシアにルーツを持つ元イラン人とのことである。
監督と同様、その出自が、映画に存分に活かされている。
美しさはもちろんだが、演技も見事だった。
今後に大注目。

映画は、日本で暮らすクルド人家族の生活を描く。
嵐莉菜さんは、受験を控えた女子高校生の役。
父の難民申請が認められず、妹や弟を抱え、生活が激変してしまう。

父との会話はクルドの言葉で演じられており、それがごく自然(クルドの言葉は全くわからないが)。
嵐さん以外のキャストは本物のクルドの方々が演じられているのかと思ったほど。
父も妹も弟も、嵐さんの実の家族だという。
びっくりした。
とんでもないことだと思った。
一体、どんなマジックを使ったのだろう。

相手役を『MOTHER マザー』で鮮烈に映画デビューを飾った奥平大兼くんが演じる。
今時の若者らしい若者を素直に演じ、映画に説得力を与えていた。
嵐さんとのやり取りは自然で素敵だった。

「マイスモールランド」は、是非多くの人にご覧いただきたい作品。
テーマは重く、爽快な気分になれる映画ではないが、
心に響くものがあると思う。

「あなたにとって、このデビュー作が最大のライバルになります。強敵ですよ。」
という恩師である是枝監督からのメッセージは、まさにそのとおりだと思う。
今後、川和田監督が今作を上回る作品を作るのは容易ではないだろう。
いや、誰にとっても、容易ではない。
そのくらいの作品を作られた。

nice!(3)  コメント(0) 
共通テーマ:仕事

nice! 3

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。