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映画評 「滑走路」 [映画評]

気合の入った映画である。
どんな映画も、
多くの人が関わり、それなりのお金が投じられているので、
当事者は気合を入れているのだと思うが、真剣味が伝わってこない作品も少なくない。
その点この映画からは、作り手の思いがビンビン伝わってくる。

だからもう、それだけで点数は甘くなってしまうが、
映画の全体的な構成としては凝り過ぎていてわかりにくいし、
3つの話が時系列も場所も登場人物もバラバラで展開するので、
感情移入もしにくい。
狙ってそうしているのであり、ある種謎解き的な意味合いもなくはないのだが、
それが成功しているとは思えない。
ドシンと、真ん中に力いっぱいの直球を投げ込んでもよかったのではないだろうか。

原作というかモチーフとなっているのは、いじめや非正規雇用といった自身の経験を下敷きにした短歌を発表し、32歳で命を断った歌人・萩原慎一郎さんの「歌集 滑走路」。
世界観は共通しているのかもしれないが、物語は全くの創作であろう。

並行して進む3つの話の主人公は、
・激務の中で、仕事への理想を失い、不眠に悩む厚生労働省の若手官僚
・夫との関係に違和感を覚える切り絵作家
・幼なじみを助けたためにイジメの標的となった中学2年生の学級委員長
という面々。
それぞれがしんどい日々を過ごしている。
成長したのち、誰が誰になり、誰がどうなるのか、
それがなかなかわからないという珍しい構成になっている。

3人はそれぞれの人生を歩む。
それは学生のころの経験に規定されたものか。
自分の周りの環境によるものか。
それとも自分自身が選び取ったものか。

映画のラストシーンは、希望に満ちた映像で終わる。
しかし、それは映画の登場人物たちの将来を暗示したものではない。
むしろ皮肉なものである。

映画のタイトルにもなっている「滑走路」という短歌がある。
滑走路は誰にでもあり、あとは自分で翼を手に入れるだけ、という趣旨である。
逆に言えば、目の前に滑走路が開けていても、翼を手に入れない限り飛べない。
ラストシーンで揚々と歩きだした二人だが、翼が手に入るとは限らない。

主演の水川あさみさんの今年の活躍ぶりは凄い。
「グッドバイ〜嘘からはじまる人生喜劇〜」
「喜劇 愛妻物語」
「ミッドナイトスワン」
本作ときて、
さらに「アンダードッグ」。
それぞれが実に強烈な映画でもあり、今年は水川さんの年と言っていい。
というか、言うしかない。

「滑走路」は、思いの詰まった作品だと思うし、
いろいろな見方ができる点もいい。
こういう精魂込めた映画が作られるのは嬉しい。
ただ、観る側に考えさせ過ぎている感があった。
そちらに頭が行って、映画的快感につながらなかった面がある。
難しいところだが。

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