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映画評 「騙し絵の牙」 [映画評]

この映画の存在を知ったのは、去年の春ごろ。
映画館で予告編を観た。
2020年の6月公開とのことであった。
「桐島、部活やめるってよ」の吉田大八監督が、
大泉洋さん主演、松岡茉優さん共演で出版社を舞台とした映画を撮る。
これはもう面白いに決まっていると思った。

しかし、コロナ禍で公開は延期。
一年近く待った後、ようやくの公開となった。

延々と流されていた予告編で強調されていたのは「騙し合いバトル」。
登場人物が全員嘘をついている、
予告編を見ているあなたもすでに騙されている、
などと散々煽られた。
となると「コンフィデンスマンJP」みたいな感じになるのかと誰だって思うだろう。
実際には、出版社の内幕ものといった感じの作品。
なんで、予告編でこれから映画を観ようとしている騙さなければならないのか、理解に苦しむ。
予告編を作った人が「騙し合いバトル」と理解したのなら、ちょっとどうかしているし、
監督やスタッフもそれを止めないのも意味不明。
映画の出来とは違うところで大いに首を傾げさせられた。
予告編も映画の一部と考えるなら、もっと誠実に作っていただきたいものである。
予告編を誠実に作っていただきたい、と思うことはそんなに無理な望みだろうか。

必死に気を取り直して、映画自体の評価に。
映画自体は、娯楽作として水準以上のものだった。
始まってすぐに、ちゃんとした映画だとわかる。
ちゃんとした映画はあまり作られないので、それだけでも嬉しい。

話はテンポよく進み、楽しく引き込まれる。
本好きの人(私もそうだが)がくすぐられる展開も盛りだくさん。
しかし、期待をかなり高めて観に行っただけに、大満足とまではいかなかった。
大泉洋さん演じる速水という編集長の背景がもう少し描かれていれば、もっと感情移入ができたのではないだろうか。
大泉さんはさすがの演技だったが、なぜこうした行動や考え方をしているのかが示されないので、
興奮が高まらない。
松岡茉優さんは、演技派としてすっかり安定。
大泉さんに振り回されつつ、本への愛を貫く編集者を熱演された。
渋い役の多い國村隼さんが、癖のある長髪の作家として出演されていたのが個人的には面白かった。
脇を固めるメンバーも、宮沢氷魚さん、池田エライザさん、斎藤工さん、中村倫也さん、坪倉由幸さん、
佐野史郎さん、リリー・フランキーさん、木村佳乃さん、小林聡美さん、佐藤浩市さんと、
豪華かつ多士済々。

「騙し絵の牙」は、予告編を見ないで鑑賞することを強くお勧めする。
もう見ちゃったよ、という人は、いったん忘れてください。
予告編なしで、吉田大八監督への過度な期待もなしで観れば、
十分に楽しめる映画だと思う。

ちなみに、原作はKADOKAWAから出版されているのだが、
劇中にKADOKAWAが所沢に建設した「サクラタウン」を思わせるような図が出てくる。
それがどのような取り上げられ方なのかは、観てのお楽しみである。

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