SSブログ

第四回ところざわ学生映画祭の感想 ~ 今年もワクワクドキドキ ~ [映画評]

今年で四回目となる「ところざわ学生映画祭」が開催された。
過去三回はコンペティション形式で、当日に優秀作が発表されたが、今回は上映会方式。
しかし、形式は違っても、学生が作った映画が上映されることには変わりがない。
コンペ方式だったら上映されたかどうか首をかしげてしまうような作品もあったが、そうしたものも含めて見せてしまおうというのが、今回の意図だと思う。

上映されたのは、以下の10作品
「お待たせセバスチャン」
「青曜日」
「AME」
「車輪」
「I wish」
「ユキジの国のアリサ」
「それでも踊る」
「おるすばんの味。」
「ケータイの中の山田」
「向こうの家」

全部について評を書くのは、いろいろな意味でちとしんどいので、いくつかピックアップして感想を書いてみたい。

「お待たせセバスチャン」
映画祭の開幕を飾ったのは、学生映画らしい突き抜けた一作。
広く言えばコメディなのだろうか。
しかし、ジャンル分けなど無意味に思えるぶっ飛び方。
奇妙な服装で奇天烈な動きをし、意味不明かつ純真無垢な行動をするシゲオのキャラクターがいい。
思い切り恥ずかしい役柄なのだが、しっかり演じ切っているから、見ている側が苦笑いにならない。
一番最後のシーンの飛び跳ねている映像も、バッチリ決まった。
もし直そうと思ったら直すところが多過ぎるだろう。
だったら、いっそこのまま直したくない感じ。
「ひどいなあ」
と思う人も少なくないだろうが、私はこの作品が好きである。
監督の小島翔さんは、何者だろう。

「ユキジの国のアリサ」
今回の映画祭で、最も衝撃を受けた作品がこれ。
78分間という学生映画としてはかなりの長尺にもかかわらず、ずっと面白さが続いた。
そして、観終わった瞬間「イエーッ!」と叫びたくなった。
いいものに出会えた喜びが湧いた。
映画に対する愛が底辺に流れているところ、波状攻撃のように様々な展開がやって来るところなど、今年大評判となった「カメラを止めるな!」を思い起こす人も少なくないと思う。
そういえば、本作にもゾンビシーンがある。
映画の世界に入り込んでしまう、という設定は決して目新しいものではないが、登場人物が俳優となって演じるというのが愉快。
最近はやりのキラキラ系恋愛映画への当てこすりも、嫌味でない感じで効いている。
設定がかなり突飛であり、いろいろな映画を渡り歩きつつ、現実の世界も進行させていくというややこしいストーリーを成立させた脚本と演出はお見事。
主演のお二人の演技も素晴らしかった。
特に映画全体を引っ張る女優さんの演技には引き付けられた。
(調べたら阪上仁美さんという方で、現在タレントとして活動されているようだ。また、なにかの作品でお会いしたい)
監督は山口十夢さん。
ここまで面白い映画を作れる方はそうおられないだろう。
ほかの作品も是非観てみたい。
(と思ってなんとなく去年の映画祭を振り返っていたら、この方「鈴木ファイターズ」の監督さんだ。こっちも幸せな作品だった)

「それでも踊る」
この映画の監督は、神山大世さん。
ところざわ学生映画祭では、高校の頃に撮った「瞳の中の記憶」という作品で、準グランプリを受賞されている。
この作品があまり素晴らしかったものだから、その後の作品を観る時にどうしてもハードルが上がってしまう。
第3回の映画祭で上映された「君が笑ってくれるなら」も秀作だったが、神山監督への期待度からすれば、もっと行けたのではと思ってしまった。
今回の「それでも踊る」は、7分の短編なのでこれらの作品と比較することはできないが、それでもやはり思ってしまう。
神山監督ならもっと行けるのではないかと。
勝手に期待されるのは迷惑かもしれないが、期待される喜びも感じつつ、さらなる高みを目指してほしい。

「ケータイの中の山田」
本作を監督した松尾豪さんは、
第1回大会で準グランプリ & 観客賞
第2回大会でもLet’s シネパーク映画賞 & 観客賞
を受賞している。
ミスターところざわ学生映画祭と呼んでもいいだろう。
作品としての評価が高い上に、お客さんにも喜ばれるのが素晴らしい。
本作も、34分間の中に、
登場人物の設定がキチンとなされ、
起承転結がしっかりあり、
いろいろな伏線がオチに向かって集約される。
気持ちのいい作品。
松尾監督の映画が、さらに多くの人に観てもらえるようになる日を楽しみに待ちたい。

「向こうの家」
本作は、渋谷のユーロスペースで公開された経緯があり、脇役としてでんでんさんが出演されているなど、一般的な学生映画の基準からはかなりはみ出している。
だから、評もちょっとシビア目で行きたい。

映像は実に美しい。
単に景色がいいというのではなく、画面の隅々にまで気持ちが行き届いている感じが伝わる。
映画の大事な要素だと思う。
主要登場人物は、いずれも難しい役どころだが、みなしっかり演じられていた。
これは役者さんに力があることが前提ではあるが、監督のしっかりした演技指導のたまものであろう。
最初から最後まで破綻なく映画は進む。
当たり前のようだがこれはなかなか大変なことで、メジャー公開されている作品も含め、多くの映画はどこかで破綻を来たしてしまうから、本作のようにしっかり撮り切れているのは素晴らしいことである。
しかし、である。(ここからがちょっとシビア目)
設定も展開も、どこか既視感がある。
完成度の高い作品で、非の打ちどころがないようでいて、これを撮らなければならなかった、という必然性が今一つ伝わってこない。
メジャー作品にはそんなものは求めないが、若者が作る作品には、どうしてもこれを撮りたかったという思いがあってほしい。
この日上映された映画の中では、「お待たせセバスチャン」や「ユキジの国のアリサ」にそうした熱情を感じた。
監督の西川達郎さんと脚本の川原杏奈さんは、これからも素敵な作品をどんどん作られることだろう。
胸をわっしとつかまれる作品を待っている。

観る前は、
「10本観るのしんどいだろうな」
と思っていたのだが、あっという間に時が過ぎた。
いいものも、正直「あれっ」というものもあったが、何かを作りたい、何かを伝えたい、という思いを共有できる空間はやはり心地よかった。
主催者の方々、運営に携わられた方々に、心からの感謝と敬意を申し上げたい。
第五回、第六回とさらに盛会となることをお祈りしています。

nice!(3)  コメント(0) 
共通テーマ:仕事

nice! 3

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。