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公平性も合理性も疑問符の地域手当 [公会計]

11月2日付の日本経済新聞首都圏経済面の「地域の風」のコーナーに、
地域手当制度が2024年に抜本的に見直されるという記事が掲載された。
市町村単位ではなく、都道府県単位など大くくりな調整方法に見直すとのことである。
東京都東久留米市や大阪府四条畷市といった「不遇」が際立っていた自治体の訴えが功を奏したと伝えている。
単位が変わることは一歩前進と言えば言えるが、それだけでいいのだろうか。

地域手当は都市部に厚い。
最大20%。
2%ではない。
手当のレベルだろうか。
地域手当が0%というところが数多くあるから、20%の地域と比べると、
年収700万円の場合、単純計算で140万円も違うということになる。

給料の決まり方は、同一労働同一賃金が原則のはずである。
同じ地方公務員として働きながら、年間100万円以上、生涯年収では数千万円もの差が生まれる。
公平であるとはとても思えない。

都市部は生活費が高いから地域手当には意味があるのではないか、という意見もあるかもしれない。
しかし現実の区分を見ると、
例えば東久留米市は地域手当6%、お隣の清瀬市は16%。
はてさて。

しかも、地域手当は住んでいる場所に応じて払われるわけではなく、務めている場所に応じて払われる。
そのため、
東久留米市に住んで区役所に務めたら地域手当20%、
23区に住んで東久留米市役所に務めたら地域手当6%、
となる。
合理性がうかがえない。

地域手当については、地域のくくりを見直す、といった弥縫策ではなく、
廃止を前提に臨むべきではないか。
公平性も合理性も疑問符なのだから。

タグ:地域手当
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税収増を還元の「?」 [公会計]

岸田首相が、経済対策の方向性について説明するなかで、
「成長の成果である税収増等を国民に適切に還元する」
とおっしゃった。
どのようなことをすることを「還元」と表現されたのかはわからないが、
減税や給付金を連想された方も少なくないだろう。
一方、鈴木財務相は、税収増の還元について、
「十分な財源的な裏付けがあるとは思っていない」
と述べられた。

企業が利益を上げると、配当という形で投資家に還元される。
これは自然なことだし、投資家も当然にそれを望んでいる。
では国家財政についてはどうだろう。

もし国家財政において、
恒常的に歳入が歳出を上回り、余剰が積み上がっている状況であれば、
税を下げるという判断がなされるのが妥当だろう。
それを還元というかどうかはさておき。
では、日本の現状はどうか。
何十年間も歳出が歳入を上回り、借金が積み上がっているのは周知のとおりである。
この状況で還元というのは、言葉の趣旨からもピンと来ない。

また、税収が増えたら還元となると、
税収が減ったらどうするのかという話になる。
その分の増税を受け入れるのだろうか。

税収が増えることは望ましいことである。
しかし、現在の日本の財政状況で、
増えたからといって還元というのはちょっと筋が違う気がする。
どういう政策を実行することが「還元」なのか、はっきりはしていないけれど。

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簡単ではない自治体ネーミング・ライツ [公会計]

山梨県市川三郷町が募集した町施設11か所のネーミング・ライツのスポンサーが集まらず、応募企業がないまま8月末までの募集期間が終了した、
とのニュースがあった。
町は募集期間を延長し、引き続きスポンサーを求めるようだ。

ネーミング・ライツとは、日本語で言えば命名権のことで、
施設やキャラクター、イベントなどに対して名前を付けることができる権利のことを言う。
最も有名なのは「味の素スタジアム」、通称「味スタ」だろうか。
味スタのように定着するのが理想的だが、
プロ野球の楽天や西武の本拠地のようにころころスポンサー企業が変わるケースも見られる。

町のホームページを見ると、命名権のスポンサーを募集しているのは、
「生涯学習センター(ifセンター)」
「地場産業会館(印章資料館)」
「市川手漉き和紙 夢工房」
「歌舞伎文化公園」
「富士見ふれあいの森公園」
「大門碑林公園」
「市川大門総合グラウンド」
「富士見スポーツ公園野球場」
「三珠農村広場」
「ニードスポーツセンター」
「つむぎの湯」
の11施設。
なかなかよさそうなラインナップに思えるが、記事によれば、
“募集対象の中には、官製談合事件の舞台になった「生涯学習センター」や、年間の利用者数が数百人にとどまる「市川手漉き和紙 夢工房」など、必ずしも宣伝効果が明確でないケースもある。”
とのことである。
ふむ。

応募がなかったことについて、町は「十分に制度が認知されていなかったのではないか」と分析しているようだ。
記事にも経営者男性の言葉として、「スポンサーを募集していることさえ知らなかった」とのコメントが掲載されている。

町が分析しているように認知不足も理由のひとつなのだと思うが、
認知が進めば応募が増えるかというとそういうことでもないような気がする。。

まず、企業側の負担として、
同町の場合、ネーミング・ライツ料は、施設に応じて年額50万~100万円とされているが、
企業が支払わなければならないのはこれだけではない。
今回のケースだけではないが、
愛称を付した施設の案内看板の表示の変更に係る費用及び契約の期間の満了又は命名権の取消しに伴って原状回復に必要となる費用も命名権者が負担することとなる。
こちらの負担が結構大きい。

また、費用対効果の問題もある。
ネーミング・ライツ料と施設の表示変更費用を合わせて200万円かかったとして、
売上が200万円増えただけでは十分ではない。
利益が200万円増えなければ効果があったとは言えないと考えると、これはなかなか高いハードルかもしれない。
もちろん、知名度が上がるという効果はあるだろうけれど。

その他、募集している施設と企業イメージのマッチングが難しいケースもあるだろうし、
撤退することになった場合のイメージダウンを恐れる面もあるだろう。

自治体の施設は、
プロ野球のフランチャイズがある球場や大規模なコンサートが行われる体育館などと比べると、
利用者は少ないし、知名度も低いケースがほとんどである。
そのなかでいかに興味を持ってもらうか。
価値を見出してもらうか。
なかなかに難問である。

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誰も信じていなくてもプライマリーバランスの黒字化目標は必要かしら [公会計]

自民党の高市早苗前総務相が、党総裁選への出馬を表明された。
そして、新たな経済政策として「サナエノミクス」を掲げられた。
語呂が悪いなど、ネットではネーミングセンスにチャチャが入っているが、
それはそれとして主な中身は、
・金融緩和
・緊急時の機動的な財政出動
・大胆な危機管理投資・成長投資
の3つである。
アベノミクスでもそうだったが、3本くらいがわかりやすい。
目新しさはないけれど。
また、物価上昇目標2%の達成を目指し、
当面、基礎的財政収支(プライマリーバランス)の黒字化目標は凍結し「戦略的な財政出動を優先する」と述べられた。

このうち、プライマリーバランスの凍結について、麻生財務大臣が否定的な見解を示されている。
すなわち、
「財政目標に掲げるプライマリーバランスの黒字化や債務残高対GDP比の安定的な引き下げは、国際社会の信認を維持するうえで重要」
「放漫財政をやっても大丈夫と、日本のマーケットを実験場にするつもりはない」
というわけである。
財務大臣という立場上、何か言わないわけにはいかない、ということだろうか。

では、実際にプライマリーバランスは守られているのだろうか?
いや、全然守られていない。
コロナの影響で守れなかったのだろうか?
いや、ずっと前から守られていない。
2025年に黒字になる目標が達成されるのだろうか?
それはわからない。
ただ、ほとんど誰も信じていない。

麻生大臣としては、
ずっと守られていなくても、
誰も信じていなくても、
目標として掲げることに意味がある、
とおっしゃりたかったのだろうか。
黒字を目指したが結果的に達成できなかった、というのと、
最初から黒字は無理とあきらめるのは違う、
ということだろうか。
マーケットは、あまり気にしていないように見えるけれど。

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京都市が赤字決算の驚き [公会計]

京都市が、令和2年度一般会計決算の概要を発表した。
それによると、実質収支が3億円の赤字になったという。
赤字は11年ぶりのことらしい。

民間企業では、赤字はそれほど珍しいことではない。
国税庁の調べによると、赤字法人率は約66%とのことなので、
3分の2の会社が赤字ということになる。
赤字が珍しくない、
というより、赤字でない方が少数派であることがわかる。

一方、自治体の赤字は極めてまれである。
令和元年度決算でいうと、
何千もの自治体の中で赤字となった団体はゼロ。
すべての自治体が黒字であった。
元年度が特別というわけではなく、
基本、いつの年も赤字となる自治体は一つもない。

それだけに、京都市の赤字決算は驚きである。
5月に、収支改善に取り組む旨発表されていたが、
当然ながらその段階で今回の決算の概略は掴んでおられたのだろう。

コロナ禍によって、
税収は下がり、
福祉の経費は上がる、
となるのが普通だから、となると赤字決算はほかにもボコボコ出てくるだろうか?

おそらくそうはならない。
自治体の主要な財源である住民税や固定資産税は比較的安定的だし、
税収が下がり、経費が増えれば、
そこを交付税が埋めるはずだからである(実際は必ずしもそうとはならないが)。
京都市は京都市が抱える独自の事情で赤字決算に陥ったのだろう。
企業と違って、連鎖倒産、というようなことも起こらない。

もちろん、だからといって他人事としてとらえていいはずがない。
どこの自治体も、明日は我が身である。
財政は悪化するときはあっという間だから、その兆候をしっかりつかむ必要がある。

京都市がこれからどんな取組を進めていくのか。
こちらも、明日は我が身である。

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急な財政破綻を招かない鍵はおそらく正直であること [公会計]

6月28日付の日本経済新聞に、
「財政破綻リスクに蓋するな 『ある日突然』やってくる」
との見出しをつけた論説記事が掲載された。

論説は、G7各国のコロナ対策を概観しつつ、コロナ後の財政立て直しについて書き、
いろいろな団体や専門家のコメントが紹介されている。

例えば、経済同友会は、
積み上がった債務をどう返してゆくのか、早急な議論を求める提言を出し、
コロナ対策費を特別会計に分離し、通常の予算編成とは別に長期の計画的な増税で財源を確保する手法を訴えているという。

同友会の経済財政推計プロジェクトチームを率いたリコーの神津多可思フェローは
「まずは財政の発散を止める。ゴールを定めて懸命に走り続ける」
と主張されているらしい。

みずほリサーチ&テクノロジーズの門間一夫エグゼクティブエコノミストは
「財政規律は必要だが、債務が膨大になったのは民間に余ったお金を必要なところに流す財政の機能が働いた結果だ。金利上昇、インフレ、民間資金調達の障害など副作用は出ていない。自覚症状がないのだから財政再建はゆっくりと」
と語られているという。

一方、佐藤主光一橋大教授は、
「自覚症状がなくても深刻さが増している可能性がある。経済動向をふまえた長期の増税シナリオを政治の責任でいくつか用意すべきだが、お上は知らしむべからずを、国民は知らぬが仏を決め込んでいる。未来を見せぬようにしているのが問題だ」
とおっしゃる。

中部圏社会経済研究所の島澤諭研究部長は、
「財政破綻は日常の延長線上に起きるのではなく、ある日突然起きるものだ」
と考えておられるそうだ。

そして、日経の記事は
「非日常の日常化に慣れきってしまうのは、危うい」
と締めくくり、ある日突然起こりうる財政破綻に備えるべき、と主張される。

財政破綻をどのような状況と捉えるのかは議論が分かれるところだが、
日経が言うように「ある日突然」起きるかというと、そんなことはないと思う。
もし起きるとしたら、想定外のことが起きたときだろう。
ではその想定外とは何か?
未曽有の大災害であった東日本大震災の際にも日本国債への信認は揺るがなかったし、
コロナ対策での大量の赤字国債発行でも市場は動かなかった。
こうした突発時が影響するわけではなさそうだ。

では、現実に危機を招いている国では何が起きたのだろう。
新興国や途上国は日本とは大きく異なる事情を抱えているので、
ユーロ圏内で危機を起こしたギリシャの例を見てみよう。
もともとギリシャは、財政赤字が多いことで知られていた。
日本と同じである。
ギリシャが危機に陥ったのは、
政権交代が行われた際、旧政権下での財政赤字の隠蔽が判明したのが引き金だった。
つまり、それまで織り込まれていたことが事実ではなかったことが知れ渡り、
それがショックを与えたのである。

ここから得られる教訓は、
財政が厳しければ厳しいと正直に言うことが大切、
という至極当たり前のことである。
ギリシャには、ユーロに加盟する国の場合、
その基準を守らなければならないという特殊事情があったにせよ、
嘘をついてはいけない。
嘘をつくとその嘘を隠すためにまた嘘をつくようになりがちだし、
ばれてしまった場合のダメージは計り知れない。

日本も、ひどい財政状況であったとしても、
それをきちんと公開しているうちは突然の危機には陥らないのではないだろうか。
実態を知っていれば、それを織り込んで行動できるからである。
だから、どんなにひどくてもまずは正直に。
それが財政再建への最初の一歩でもあると思う。

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おそらく京都市だけではない財政危機 [公会計]

京都市が、
将来、企業の破産にあたる「財政再生団体」に転落する恐れがあるとして、
5年間で約1,600億円の収支改善に取り組むと発表された。

このことについての街の声として、
「それまでに打つ手はあっただろうに」
「トップの連中は今まで何しとったんやろって思いますわね」
「遅いですよね」
などといった言葉が紹介されていたが、
いやいや、まだ京都市は破綻したわけでもなんでもない。
しっかり危機的状況を公表し、市民と事態を共有しながら取り組もうとされているのである。

京都というと何やら華やかにイメージだが、特有の事情があるらしい。
財政難には、以下のような理由が挙げられていた。

・学生と神社仏閣が多く税収が少ない
京都市は大学生などの若年層や高齢者層が多く暮らしていて、市民一人あたりの税収入が他の政令市よりも少なく、
神社仏閣や木造建築が多いため、固定資産税も少ない、
というのである。
しかし、学生が多いことは活力の面ではプラスだろうし、
神社が多いことが観光客を引き付けてもいるので、一概に財政的に悪いばかりも言えない気がする。
また、これらは今に始まったことではないだろう。

・手厚い行政サービス
保育料の軽減や医療費の助成のほか、
70歳以上の市民に市バスや地下鉄が乗り放題になる乗車証を配るなど、
独自の手厚い行政サービスを長年行ってきたのだそうだ。
それらが限界に来たということだろうか。

・地下鉄東西線
1997年に開業した地下鉄東西線の建設に約5500億円かかったが、
利用客は伸びず経営を維持するために市の一般会計から補てんしているのだという。
大都市ならではの支出であり、重荷になっているのだろう。

・新型コロナの影響
コロナの影響を受けたのはどの自治体も同じだが、
日本一の観光都市である京都のダメージは特に大きいのだと思う。
コロナ前にインバウンドの恩恵は受けていただろうが、
今回のような急激な落ち込みを事前に予測するのは不可能であり、
備えがなかったことをあげつらうのはフェアではないように思う。

門川市長は、
「財政再生団体に絶対に陥らない。特にこの3年を集中改革期間として全力投球していきたい」
とおっしゃられ、
改革案には
70歳以上の市民が安い料金で市バスや地下鉄を使える「敬老パス」の年齢引き上げや、
軽減してきた保育料を改定するといった住民サービスの見直しのほか、
市職員550人の削減も盛り込まれた。

京都、という超有名都市の発表であっただけに大きなインパクトがあるが、
財政危機に陥る可能性がある自治体は、ほかにいくつもあるだろう。
それをどのような形で公表するかという点に違いがあるだけで。

こうすれば財政危機が解消するといったわかりやすい処方箋はない。
景気の劇的な回復、それに伴う税収の大幅増、
といったことが、あると思う方がどうかしている。
現実にしっかり向き合い、
住民のみなさんと一緒に考えていくしかない。
地方自治体ならできるはずだ。

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臨時財政対策債への理解 [公会計]

一般の方にはなじみが薄いと思うが、自治体が発行する地方債の一つに、
臨時財政対策債、略して臨財債というものがある。
臨時、とされているとおり、当初平成13年から平成15年度までの3か年の臨時的措置として始まったものである。
しかし、かれこれもう20年続いているから、さすがに臨時感はない。

実にややこしい仕組みなので、うまく説明することは難しい。
地方債であるが、他の借金とは大きく性格が異なっているということを理解していただきつつ、
抑えておくべきは、
・地方交付税制度の枠組みの中にある
・自治体が発行額を決められるわけではなく、地方交付税とセットで国が発行限度額を示す
・償還に要する費用は全額後年の交付税で措置されるため、基本的に自治体の負担はない
といったところだろうか。

とにかく、勘違いしてはいけないのは、
「赤字分を埋めるための地方債ではないこと」
である。
歳入が100、歳出が120だから、足らない分の20を臨財債で埋める、
という類のものではない。
臨財債については発行できる額を自治体が決められるものでもないのだから当然であるが。

なぜこんなことを書いているかというと、埼玉県の予算案を伝える新聞記事の表現に、ちと気になる文言があったからである。
ちょっと三紙の記事を引用してみたい。

朝日新聞
「財源不足を補う臨時財政対策債は2050億円と前年度からほぼ倍増」
日本経済新聞
「臨時財政対策債の発行額を1,000億円以上増やして不足分を補う」
産経新聞
「財源不足を穴埋めするために県が発行する『臨時財政対策債』の規模が拡大」

この記事を読まれた方はどう思うだろう。
当然、
「歳出に見合う歳入が確保できなかったので、その不足分を借金して賄おうとしているんだな」
と思うだろう。
それ以外の解釈はできそうにない書き方なので仕方ない。
事実とは違っているが。

この記事を書かれた方は、記事を書かれているくらいなので地方財政に関する一定以上の知識を持っておられる方だと思う。
だから、臨財債について、赤字国債と同じような意味で発行することはできないことはご存知だろう。
全国の地方自治体の総合計である地方財政計画において、地方財政が財源不足に陥り、それを補うために発行されるのが臨財債なので、そこらへんの説明を一気に端折って、上記のような表現になったのだろう。
字数の制限もあるだろうし。

しかし、結果的におそらく誤解を広めてしまったことは残念である。
このわかりにくさといい、
臨時と言いながら20年も続いていることといい、
仕組みの継続性に心配があることといい、
臨時財政対策債には問題が山盛りである。

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自治体財政は税収減を地方債で埋める仕組みにはなっていない 念のため [公会計]

東京都が令和3年度予算案を発表した。
そして本件に関する朝日新聞の見出しは、
「都の当初予算案7・4兆円 コロナで税収減、都債で賄う」
というものだった。

これを読んだ人はどう思うだろう。
もちろん、
「税収が減ってそのままでは予算が組めなくなったから、足らなくなった分を借金した」
と解釈するだろう。
この見出しからは、そう読み取るのが自然だし、ほかの読み方はないだろう。
ちなみに本文中には、
「都は今回、これまで抑えてきた都債を5876億円発行する。前年度比3792億円増で、税収減を都債で賄う構図となる。」
とある。

ご存知の方が多いのか少ないのかよくわからないが、
地方財政においては、収入が足らない分を借金で賄う、ということはできない。
毎年野放図に赤字国債を発行している国とは、そこが大きく違う。
地方自治体が借金できるのは、建設事業などに充てる分のみと限定されている。
仕組み上、税収減により足らなくなった分を都債で賄うということはできないのである。

記事を書いた記者の方は、地方財政制度にも詳しいだろうから、
自治体が歳入不足を借金で穴埋めできないことは当然ご存知だろう。
しかし、税収が減った一方で都債が増えたのも事実だから、結果として穴埋めをしたような形になっている。
だから、ややこしい過程は省いて「コロナで税収減、都債で賄う」という見出しにされたのだろう。
限られた字数であり、事情はわからなくもないのだが、
誤解を招きかねないとは思う。

ちなみに日本経済新聞では、こう書いている。
「新型コロナウイルス感染拡大の影響で税収は4000億円減少する見通し。各種基金を取り崩して財源を確保し、残高は半減する見込みだ。」
つまり、税収減の分は基金の取り崩しで埋めているという表現で、制度上はこちらの方が正しいと言える。

国や民間企業の経営方法を見ても、借金で事業を回すのは普通のことである。
だから、収入不足分を借金で埋めることができないなどと想像もされないかもしれない。
しかし、大事なことなので、念のため繰り返し。
地方財政においては、収入が足らない分を借金で賄う、ということはできない。
これをご存じない方がとても多いように思うのだが、是非知ってほしい。
だから地方自治体は苦労しているのだし、
だから地方自治体は借金が少ないのである。

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命がけで財政規律を守る国 [公会計]

我が国の財政の現状については、専門家の間でも両極端な意見が出される。
積極派は、
日本の財政に全く問題はなく、
そもそも先進国の財政が破綻することなどはない、
という。
財政規律派は、
借金は子や孫の代を苦しめるものであり、
このままではハイパーインフレに襲われる、
という。
両者が交わることはなさそうだ。

コロナ禍において、日本の財政はさらに悪化した。
財政出動したのは日本だけではなく、世界中で債務が膨れ上がったのだが、
もともとGDP比で突出して多かった我が国の債務残高が、輪をかけて大きくなったのも事実である。

13日のテレ東系の経済ニュース番組「モーニングサテライト」に、東短リサーチの加藤出さんが出演され、
「コロナで借金を重ねる前に・・・」
というテーマで話をされた。
私は、モーサテにゲスト出演される方は、どなたも信頼している。
根拠なく偏った見解を示されることはない。
この日の加藤さんも、日本の負債が膨らむことに警鐘を鳴らしつつ、財政規律一辺倒の話ではなかった。
覚悟のようなものを訴えられた。

例として出されたのは北欧のスウェーデン。
1990年頃は、日本と債務残高がほとんど同じくらいだったそうだ。
それが今では大きな差がついている。
この原因を北欧の税金の高さに求めることはたやすいが、加藤さんはそれだけではないと主張された。

スウェーデンは、コロナに対し、あまり積極的な対策を取っていないことで知られている。
結果として、多くの感染者が発生し、
人口が日本の10分の1以下であるのに、死者は日本の3倍以上に達している。
さらに、医療がひっ迫し、高齢者には十分な治療ができない状況になっているという。
たまたま高齢者に手が回らないというのではなく、意図的に若者を優先しているというのである。
限られた財源では、全国民を均等に守ることはできないと判断し、
高齢者を後回しにする決定をしているのだという。
これを加藤さんは、「命をかけて財政規律を守っている」と表現された。
そして、このやり方を、高齢者も支持しているというのである。

これがいいかどうかはわからないし、
日本に当てはめるべきかどうかもわからない。
しかし、それだけの覚悟を持っている国もある、
そして、それを国民も支持している、
ということは知っておきたい。

財政をめぐっては、両極端な議論が空回りを続けている感がある。
どちらの立場をとるにせよ、スウェーデンの覚悟は見ならいたいものである。

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