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書評 「火車」 これは、人間業なのか [読書記録]

映画化されたことで一気に注目が集まり、「告白」が大いに売れているらしい。
ここ何年かビジネス書の類しか読んでいなかった私が、移動時間の長い出張を利用してこの本を読んだことは、前にこのブログにも書いた。
そして、本屋大賞受賞作にもかかわらず、正直ガッカリしたことも書いた。

ガッカリしながらもこう思った。
これはひょっとして、作品が悪いのではなく、私の読書力が落ちているのではないか、もうどんな作品を読んでも、いいとは思えなくなってしまっているのではないか。
いいものはいい、と思える力が残っているかどうか、それを確かめたくて選んだ本が、宮部みゆきさんの「火車」である。もう何年も前に読んだ本だから、「よかった」ということだけは覚えているが、ストーリーなどはすっかり抜け落ちている。
これを読んで、「いい」と思えないのなら、私の読む力がなくなっているのだろう。

結果は、「いいものはいい」だった。
文庫本で600ページにも及ぶ大作であるが、終始隙が無い。これは当たり前のようだが実は大変なことで、とんでもない才能と集中力を持った人であることに今さらながら驚かされる。
文学、という枠組みでとらえられる作品ではないから、ミステリーと言われるのだろうが、ジャンルを超えて、文章としてのまとまりとしての、ひとつの集大成とさえ思える。
人物描写の深さ巧みさは、スティーヴン・キングに通じるものがあるが、母国語で書いているだけに、宮部さんに利がある。多くの「恐るべき」とでも言いたくなるような鋭い表現があり、それらはその表現を生み出しただけで後世に語り継がれていいレベルに達していると感じた。

もちろん、ストーリーもいいのだが、なんというか、この作品に関してはストーリーについて云々言うのさえナンセンスに思える。そういう次元ではないのだ。
この作品を人間が書いたというのが信じられない。
繰り返すが、ストーリーの奇抜さ面白さではない。このようにあまりにも高質な緊張感を保ち続けた文章を、600ページにもわたって、人間が書き続けられるのだろうか。
信じられない。

今、最後の10ページほどを読み返してみた。
すごい。
凄い。

誰にでも薦められる本ではない。というか、相手を選んで薦めたい本である。
この本を薦めて、「あまりよくなかった」という反応が返ってきたら、私はその人とはその後距離を置いてしまうかも知れない。
傑作というのとも違う、別次元の作品であった。
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