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書評「火花」 [読書記録]

又吉直樹さんの「火花」を読んだ。
芥川賞受賞作にして、200万部突破の大ベストセラー。
今年の出版界の最大の話題であるのみならず、2015年を象徴する出来事になった感さえある。

読まれた方も多いと思うし、概要は知っているという方も少なくないと思う。
アマゾンの「BOOK」データベースでは、次のように紹介されている。
「お笑い芸人二人。奇想の天才である一方で人間味溢れる神谷、彼を師と慕う後輩徳永。笑いの真髄について議論しながら、それぞれの道を歩んでいる。神谷は徳永に『俺の伝記を書け』と命令した。彼らの人生はどう変転していくのか。人間存在の根本を見つめた真摯な筆致が感動を呼ぶ!」

又吉さんの文学への向かい方には、以前から好感を持っていた。
小説を書かれた、と聞いたときにも、いつかは書かれるだろうと思っていたから、よいことだと感じた。
ただ、買って読もうとまでは思わなかった。
芥川賞を獲られるまでは。
だから、私が本作を読んだきっかけは、多くの方と同様に芥川賞の受賞である。
そして、本作を評価する際には、どうしても芥川賞受賞作としてどうか、ということがひとつの基準となる。
新人の作品としてどうか、とか、芸人さんの作品としてどうなのか、とか、そういう線引きではなくなる。

つまり、「火花」は、以下に掲げるような作品と並んで評価されることになる。
芥川賞受賞作とは、例えば、
安岡章太郎「悪い仲間・陰気な愉しみ」
石原慎太郎「太陽の季節」
大江健三郎「飼育」
三浦哲郎「忍ぶ川」
庄司薫「赤頭巾ちゃん気をつけて」
宮本輝「螢川」
といった作品群である。
「処女作なのだから、歴史的な傑作と比較するのはフェアではない」とは言えない。
芥川賞を受賞してしまったのだから。

石原慎太郎さんの「太陽の季節」に人生を変えられた人は少なくないだろう。
大江健三郎さんの「飼育」に例えようのない衝撃を受けた人は少なくないだろう。
庄司薫さんの「赤頭巾ちゃん気をつけて」に勇気をもらった人は少なくないだろう。
又吉さんの作品はこれらと比べてどうだろう。
失礼ながら、「火花」に軍配を上げる人はごく少数であろう。

もちろん、歴代の芥川賞受賞作が、すべて先に挙げた作品群のレベルに達しているわけではないことはよく承知している。
芥川賞を受けていながら、「あれ?」という作品もある。
しかし、だからといって又吉さんの作品が過去のものより一枚劣ることが免罪されるわけではない。

芥川賞云々を抜きにすれば、楽しく読める作品であった。
そこはかとなく漂うむなしさも、はかなさも、根底にある明るさも、好ましいものだった。
積み上げられるエピソードはほほえましく、ラストも美しかった。
主人公の先輩の無頼ぶりは、なんだか今一つ突き抜けていない感じがしたし、
主人公もどこに行きたいのかよくわからない。
ただ、そのあいまいさが、現代っぽさを象徴しているようにも思えた。
よい作品であると思う。
文学を志すすべての人たちの頂点に立つ作品かどうかをさて置けば。
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