SSブログ

映画評 「桜色の風が咲く」 [映画評]

本作は、世界で初めて常勤の大学教員となった盲ろう者である福島智東京大学教授をモデルにした伝記ドラマ。
盲ろう者とは、視覚と聴覚の重複障害者のことを指し、
福島教授は幼い頃に視力を、18歳に聴力を失われた。
映画では、そのあたりの経緯も描かれる。

実話をもとにしているだけに、
再現ドラマを観ているような感覚になる。
それはちと悪い意味でもあって、
特に前半の病院での描写は悪者作りが露骨過ぎて、
興醒めする箇所がある。

それにしても、
目が見えなくなる恐怖、
音が聞こえなくなる恐怖は、いかばかりだろう。
これほど深い絶望はほかにはなかなかないだろう。
映画を観ることができている幸せにも思い至る。

実際の福島さんは東大教授にまでなられるのだが、
本作はサクセスストーリーやほのぼのとした人情ものではなく、
厳しい現実に直面するシーンや、
家族内での衝突も描かれる。

困難に立ち向かう息子を支える母役に小雪さん。
お母さん役が板につく女優さんになられた。
青年期の福島さん役に田中偉登さん。
意思が強く、やんちゃで、それでいてやはり弱いところもある青年をしっかり演じられた。
子役がいい映画でもあった。
幼年期、少年期の福島さんを演じた二人の男の子が実によかった。

本作は、学生時代の福島さんの姿を描いて終わる。
観ている側としては、その後の活躍も見せていただき、
スカッとさせて欲しかった気もする。
映画的エクスタシーを求めてはいけなかったか。

nice!(3)  コメント(0) 
共通テーマ:仕事