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映画評 「とべない風船」 [映画評]

この映画のサイトには、こんなことが書いてある。
『広島から全国、そして世界へ
被災地出身の新鋭監督が地元の人々の経験を風化させないために映画化。』

資金を集めるためにMakuakeでクラウドファンディングをされたらしく、
そこには、
『地方発の映画でも決して負けないクオリティを』
とあった。

その意気やよし、であるが、
実際そのとおりしっかりした作品だった。
地域の持つ課題に向き合い、
地域のよさをPRしながら、
狭いところに留まらない普遍性も持った作品に仕上がっていた。
メジャー系作品のようなドンパチや派手な展開がないなか、
見応えのある作品に仕上げられたことはすばらしいことである。

監督・脚本は、広島を拠点にCMディレクターとして活躍されている宮川博至さんという方。
平成30年7月豪雨の体験をもとに、
「ここ広島で生活しているからこそ、豪雨災害をテーマに映画を作らなければならない」
と決意されたという。
災害をテーマにしている点では、新海誠監督の「すずめの戸締まり」に共通するものがある。

舞台は、瀬戸内海のある島。
ここに、三浦透子さん演じる都会で心を病んだ女性が父を訪ねてやってくる。
父親役は小林薫さん。
この島では数年前に豪雨災害があった設定となっていて、
そのときに心に傷を負った漁師役を東出昌大さんが演じる。

大きな事件が起きるわけでもなく、
映画は静かに進む。
しかし、飽きることはない。
きちんとした脚本をもとに、
意図をもった演出がなされ、
役者も丁寧な演技でそれに応えている。

正直なところ、もうワンパンチ欲しい気はなくはないが、
最後まで破綻なく美しい作品として仕上がっている。

地方発の映画、というと、
その地方の名物や名産の紹介に妙に力が入ってしまったり、
悪い意味での手作り感が浮き上がってしまったりすることが少なくないのだが、
本作はそうした作品とは一線を画している。
広く、長く観られ続けることを祈りたい。

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