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映画評 「グラフィティ・グラフィティ!」 ~敬意を込めて、厳しいことも少々~ [映画評]

世の中的には、ほとんど知られていないながら、映画を作り続けている方々がおられる。
実際に携わったことがないので、よくわからない部分も多いが、
映画を作るということは、本当に大変だと思う。
手間もかかるし、時間もかかる。
人手もかかる。
作っても観てもらえるかどうかわからない。
しかし、そんな苦しい思いをしながらも、映画を作り続ける方々がおられる。
映画にはそれだけの魅力がある。
「今に見てろ」
と歯を食いしばりながら映画を作っている皆さんの作品が、
少しでも多くの人たちの目に触れることを祈っている。

今作「グラフィティ・グラフィティ!」を撮られた松尾豪さんも、自主映画を作り続けておられる方の一人。
世間的には無名の存在だろうけれど、いろいろつてがあって私はいろいろな作品を観させていただいてきた。
「愛を込めて壁ドンを」「ケータイの中の山田」
といった作品では、ハートフルコメディを、
「UNDER M∀D GROUND」
ではアクションを、
そして、各種のアニメ作品も手掛けておられるという俊英である。

「グラフィティ・グラフィティ!」は上映時間30分の小品。
グラフィティ(落書き)に魅せられた女子高生と、
店のシャッターに落書きされて激怒するオヤジの闘い(?)が描かれる。

簡単な構図であり、出演者もわかりやすく演じているので、すんなり物語に入れる。
松尾監督の演出力+映像テクニックもあり、エンディングまで一直線に見られる。
毎回クオリティの高い作品を出し続けられる松尾監督と松尾さんを支えるスタッフの皆さんに脱帽である。

機会があれば、是非ご覧いただきたい、
で締めようかと思い、
あれこれ迷ったのだが、
松尾さんを含めスタッフ、出演者の皆さんもこの作品を真剣勝負で作られただろう。
であれば、こちらも真剣に応えさせていただくのが正しいと思ったので、
あえてよくないと思った点も書かせていただく。

物語が、なんとも弱い。
そもそも、主人公がグラフィティにはまる理由にうまく共感できない。
実際の生活では、なにかにはまることにまっとうな理由などないことも多いが、
映画ではそこをきちんと伝えて欲しい。
短い作品であればあるほど。
同じように、主人公がグラフィティから離れる理由も、どうもしっくり来ない。
ここらがすとんと落ちていないので、ラストでエクスタシーが得られなかった。

主人公と対峙するオヤジの設定もあれでよかったか。
もう少し奥がある設定にした方が深みが出たように思う。
ベタな設定にはなるが説得力は増す。
これは好みの問題かもしれないが。

作り手としては、あまり観る方におもねり過ぎたくないという思いがあったのかもしれない。
描き過ぎないように注意されたのかもしれない。
私には、寸止めにならず、かなり前で止まっているように思えた。

また、この作品からは作り手の思いをうまく受け取れなかった。
映画を撮る以上、
こういう絵を撮りたい、
こういう思いを伝えたい、
若しくは、
とにかく人を喜ばせたい、
とにかく人を泣かせたい、
といった動機があるはずだと思うのだが、それが伝わってこなかった。
それが、
グラフィティの素晴らしさ、ということであればもっと違う方法があったはずだし、
諦めない気持ち、ということであれば物語は違う展開でよかったはずだし、
とにかく喜ばせたいということならばもっと喜ばせてもらいたかった。

いろいろ書いてしまった。
全く言うまでもないことだが、私がそう思ったというだけで、これが正しいわけでもなんでもない。
実際、上映会に足を運ばれた方のほとんどは、好意的な評価をされたという。
さらに、本作は、国内最大級のインディーズ映画祭である田辺・弁慶映画祭に入選したというから、評価の輪が広がってもいる。
こののち、大きな映画館でかかることもあるかもしれない。
その時は、是非皆さんの目でご覧いただきたい。
若い才能の登場に立ち会えるのは、本当に幸せなことだから。
観ることで成長に少しでも役立てるのなら、本当に素敵なことだから。
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