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映画評 「記憶にございません!」 [映画評]

若い人はあまり知らないかもしれないが、
1970年代の中ごろ、「ロッキード事件」という大騒動があった。
最終的に、元首相の田中角栄氏の逮捕にまで行きつくこの疑獄において、
主要な役割を果たしたとされたのが、日本のフィクサーなどと呼ばれていた小佐野賢治氏であった。
そして、小佐野氏が国会の証人喚問で再三繰り出された、
「記憶にございません」
という言葉は、子供も使うような流行語となった。
三谷監督の最新作「記憶にございません!」も、当然このことを踏まえているだろう。

三谷監督の前作「ギャラクシー街道」は、
シュールというのかナンセンスというのか、とにかく一般の人にはわかりにくい内容で、興行的に失敗した。
それから4年。
本作は、ベタベタのコメディ。
三谷監督らしい作品で、期待に応える内容になっている。

嫌われ者だった総理大臣が記憶を失い、善人となって生まれ変わる、という設定は、
誰が見ても斬新ではない。
王道コメディと言っていい。
だからこそ、安心して笑うことができる。
私が観に行った回でも、何度も笑いが起きていた。

デビュー作である「ラヂオの時間」で感じたような、
ワクワク感、ドキドキ感はない。
予定調和の連発で、伝えたいメッセージらしきものも平板。
それを不満に思うか、
コメディとして純粋に楽しむかは、それぞれだろう。

三谷さんらしく脚本はしっかりしていて、登場人物の造形も豊かだが、
主人公の総理大臣の豹変ぶりに説得力がないのが残念至極。

出演者は、みな楽しそうに役割を演じていた。
石田ゆり子さんのコメディエンヌぶりは見どころの一つだし、
斉藤由貴さんも愉快。
吉田羊さん、木村佳乃さんの怪演ぶりも痛快。
個人的には、宮澤エマさん演じる通訳がツボで、このパートがずっと続くことを願った。

「記憶にございません!」は、安心して楽しめる娯楽作。
大人のツボを刺激してくる。
熱量は少なめだが、まあ、そこまで望まなくてもいいか。

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