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映画評 「一度も撃ってません」 ~ この映画、好きです ~ [映画評]

本作は、名脇役として知られる石橋蓮司さんが主演を務めるハードボイルド。
コメディ要素も満載だし、タイトルからしてハードボイルドではないのだが、
形だけのハードボイルドよりずっとハードボイルドである。
(ここまででハードボイルドという言葉を4回も使った。普段はほとんど使わない言葉だが。)

石橋蓮司さんが演じられるのは、売れない小説家。
しかし、書いている原稿のうち、殺人の描写がやたらと微に入り細を穿っていて、
実は伝説の殺し屋ではないかと言われている。
石橋さんの友人役で、深い夜の街で絡むのが岸部一徳さんと桃井かおりさん。
特別こうしたベテラン俳優の皆さんに思い入れがあるわけではないが、
実にいい雰囲気を醸し出されていた。
好きな人にはたまらんだろう。
いつまでも観ていられる感じ。
実に絵になる。
大楠道代さん演じる石橋さんの奥さんだけはまともな人間として描かれているが、
この映画の世界ではまともであることは違和感になる。

その他、
佐藤浩市さん、豊川悦司さん、江口洋介さん、妻夫木聡さん、井上真央さんといった主演級の皆さんが小さな役で絡む。
柄本親子も。
通常、こうしたスター総出演的な映画は、見せ場をちょくちょく作るがゆえに散漫な印象になるのだが、
本作では皆がいい感じに演じていて楽しく観られる。
豊川悦司さん演じる殺し屋の描き方に賛否はあるだろうが、あれはあれで。
プロレスラー新崎人生さん演じる酒場のマスターもよかった。

本作のHPを見ると、こんなことが書いてある。
『人生最期の究極の「こだわり」を“かっこいい”とするか“悪あがき”と呼ぶか――。
いまだ青春時代を忘れられない大人たちの、“おかしみ”と“愛らしさ”たっぷりな“ハード(ト)ボイルドコメディ』

これを読むと、昔はよかった、的なノスタルジックな作品と思われるかもしれないが、
そんなことはない。
登場人物たちは、最前線で闘っている。
だからこそおかしいし、馬鹿馬鹿しいし、かっこいい。

メガホンは、阪本順治監督。
巨匠、という表現はあまり似合わないが、日本を代表する映画監督の一人であろう。
阪本監督作品ということで、とんがった映画を期待されている人には、ひょっとしたら肩すかしかもしれない。
ヒリヒリした緊張感、といったものはない。
しかし、実に芳醇な時間を感じることができた。
「この映画好きだなあ」
と思いながら観ていた。

ちょっとどうかと思うのはタイトル。
言わなくてもいいことだと思うし、
映画のムードにも合っていない。
そこだけ、少し残念。

「一度も撃ってません」は、実に楽しい映画。
大人向きではあるが、若い人にもぜひ観てもらいたい。
きっと楽しんでもらえると思う。
大人の辛さ、切なさ、いたたまれなさ、カッコよさを味わえる。
できれば、シネコンではなく、
新宿なら武蔵野館、池袋ならロサみたいなところで観ると、
一層よろしいかと思う。

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