SSブログ

映画評 「朝が来る」 [映画評]

海外を含め、各種の映画祭で評価の高い河瀬直美監督が、
直木賞作家・辻村深月さんの小説を映画化した作品。
特別養子縁組で男児を迎えた夫婦と、子供を手放す幼い母親の人生を描く。

子供ができない夫婦の物語と、幼い母親の話がそれぞれ描かれる。
夫婦にはかなりの葛藤はあるが、それなりに幸せな光景。
幼い母親は、天真爛漫な少女時代からの転落が悲しい。

引き取った子供と幸せに暮らしている夫婦に、生みの母親を名乗る女から電話がかかる。
映画の宣伝に「心揺さぶるヒューマンミステリー」とあるが、
電話をかけてきた女が何者なのか、というのがミステリー部分。

いい映画は大抵そうだが、河瀬さんの作品は絵が美しい。
そして、美しい絵から緊張感が伝わってくる。
駄目な映画は、大事なシーンもダラダラして映るが、
河瀬さんの映画では、何でもないシーンでも画面が締まっている。

本作は、河瀬さんが、監督に加え、脚本、撮影までされているので、まさに河瀬さんの映画。
そして、描きたいことを描き切られたのではないだろうか。
正直、ちょっと長い(139分)と感じたのは事実だが、必要のないシーンはなかった。
描きたいことを描き切れる手腕は素晴らしい。

夫婦役に、永作博美さんと井浦新さん。
永作さんの抑えた演技がさえる。
井浦さんもはまっていた。
幼い母役に蒔田彩珠さん。
今年観た「#ハンド全力」「星の子」でも、実に印象的だった。
是枝監督作品にも出演歴があり、これからどんどん出てくる女優さんだと思う。

途中、実際の特別養子縁組の親子らしき人たちが出てくる。
ドキュメンタリー映画作家でもある河瀬監督の面目躍如たるシーンであり、
映画の説得力が増していた。

長い作品ということもあり、エンドロールの途中で席を立たれる方がおられた。
しかし、この映画では、エンドロールの最後に大切なセリフがある。
タイトルにもつながる言葉なので、明るくなるまで席を立たれないことをお勧めする。

「朝が来た」は、伝えたいことがてんこ盛りの力作。
河瀬直美監督の手腕がさえる映画になっている。
不妊、特別養子縁組、未婚の母など、テーマは重いが、作品はそれをがっちり受け止めている。
しっかりじっくり映画を観たい人におススメ。
nice!(2)  コメント(0) 
共通テーマ:仕事