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映画評 「ひとくず」 [映画評]

映画が始まってすぐ、「やばい」雰囲気が伝わってくる。
映像は粗いし、音声も汚い。
何か見てはいけないものを見てしまうのではないかという不安に駆られる。

展開は割りとベタだし、
回想シーンも濃密に描かれるので、
理解することはたやすい。
しかし、次のシーンではとんでもないことが起きるのではないか、という得体のしれない緊張感から逃れることはできなかった。
いいことだと思う。

公開されているストーリーをかいつまむと、
犯罪を重ねる主人公は空き巣に入った家で、虐待されている少女と出会う。
虐待を受けた過去がある主人公は、少女を助けようと決意するが、
ヤクザも絡む混とんの渦に巻き込まれる、
といった感じ。

地べたを這いずり回っている人間たちの物語なのだが、
会話がなんとも可笑しい。
男は、二言目には、
「ブス」
「バカ女」
と罵り、
女も負けずに口汚く言い返す。
愛情があるからこそ言い合っている、というほのぼのしたものではなく、
彼らにはこうした言葉しかない。
ヒリヒリ痛いのだが、
それがなんとも可笑しい。
笑いに近いものを狙っているわけではないのだろうが、
感情のぶつかり合いが笑えてしまう。

タイトルの「ひとくず」とは、人間の屑、ということだろうか。
主人公は犯罪を繰り返している存在であり、彼のことを指しているのか、
それとも自分の子どもを虐待している親のことを指しているのか。

この壮絶な映画の監督、脚本、主演を務められたのが上西雄大さんという方。
芸能プロダクション兼劇団「10ANTS(テンアンツ)」の代表とのことだが、初めて拝見した。
超強烈であった。
そして、女優さんたちがいい。
女の子の演技に注目が集まるだろうし、実際素晴らしいのだが、
私は虐待する側の役を演じる女優さんたちにひかれた。
すさまじい演技だった。
なんだかおかしかった。
痛みがビンビン伝わってきた。

はじめにも書いたが、映像は粗いし、正直汚い。
音声は悪いし、
音楽もよくない。
しかし、こうしたマイナスの要素が映画の雰囲気をより濃厚に演出している面もある。
普通の商業映画的に小綺麗に作られていたら、ここまで心に届いたかどうか。

「ひとくず」は、ヒリヒリ刺さる映画。
映像や演出は昔の映画っぽいが、テーマは現代的。
覚悟を持って映画を観られる方には、是非ご覧いただきたい。
映画の奇跡のようなものも、ほの見える。

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