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映画評 「せかいのおきく」 2023年を代表する一本 [映画評]

阪本順治監督自ら、
「“糞ったれ”青春時代劇」
と呼ぶ作品。
監督の本作のオファーを受けて、
「“うんこ”ならやります」
と伝えたという。

青春は往々にして糞ったれなものだが、
本作では下肥買いの男二人が主要キャストなので、
誇張なく全編糞まみれ。
モノクロだから見ていてもそれほどドぎつくはないが、
カラーだったらちょっと耐えられなかったかもしれない。
(たまに色がつくのでご用心)
映画に臭いがついていたら、観客は倒れていた。

「下肥買い」は、別名「汚穢屋:おわいや」ともいい、
肥桶を担いで糞尿の回収に回るのが仕事。
江戸時代、糞尿は貴重な肥料だったのである。

本作でおわいやを演じるのが、
池松壮亮さんと寛一郎くん。
先輩格の池松さんは、世の中に糞ったれと毒づきながら、小心翼々として過ごしている。
池松さんを兄貴として慕う寛一郎くんは、正しく生きようと努める。
二人と関わりを持つ武家の娘役に黒木華さん。
黒木さん演じる娘は、喉を切られ、声が出せなくなってしまう。
池松壮亮さんはいつものとおり素晴らしく、
寛一郎くんはピタリと役がはまった。
黒木華さんは日本映画を支えてくれている。

うんこまみれのしんどい話なのだが、
寛一郎くんと黒木さんの純愛を描く作品でもある。
不器用な二人の生き方と接し方は、観ている方が切なくなる。
頑張れ、と応援したくなる。

タイトルの「せかいのおきく」の意味は、
是非映画を観て確かめていただきたい。
世界という概念とはかけ離れたちっぽけな暮らしを描いているのだが、
ここでいう「せかい」は、確かに「世界」だと思わせられる。

理不尽な世の中を描いているが、
息苦しいだけではなく、
人々のたくましさも伝わる。
若者の息遣いが生々しい。

「せかいのおきく」は、2023年を代表する作品だと思う。
しんどい映画だが、上映時間は89分であり、きっと苦痛にはならない。
しんどい映画だが、観る価値はたっぷりある。
映画魂が伝わる渾身の一作を是非劇場で。

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