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映画評 「モリのいる場所」  【好きです、この映画】 [映画評]

タイトルの「モリのいる場所」の「モリ」とは、1977年に97歳で亡くなられた実在の画家、熊谷守一さんのこと。
「画壇の仙人」と呼ばれていたらしく、映画でも世間と極端に隔絶した暮らしぶりが描かれる。

熊谷さんは、何十年間も自宅の庭から外に出たことがないと言われていたそうな。
庭のあちこちを転々としながら、虫や魚を見て暮らされていた。
そんな熊谷さんのある一日を、淡々とユーモラスに描く。
大事件も起こらないし、大きな展開もない。
それでいて、まったく飽きなかった。

主役の熊谷さんを山崎努さんが、その妻の秀子を樹木希林さんが演じられている。
日本を代表する役者であるお二人が、その実力を存分に発揮されている。
そして、その演技をしっかり引き出し、映画に活かし切っている沖田修一監督の手腕も素晴らしい。

1974年の東京が舞台。
しょっぱな、お手伝いさんが樹木希林さんのそばで、沢田研二さんの「危険な二人」を鼻歌で奏でている。
1974年と言えば、「寺内貫太郎一家」が放送されていた時期で、樹木希林さんは悠木千帆名義で出演され、毎回沢田研二さんのポスターに向かって「ジュリー!」と叫ばれていた。
映画は、そんなちょっとした遊び心で満たされている。
ドリフターズへのオマージュもささげられていて、監督の当時の文化への愛が感じられる。
ドリフ関係のシーンはちょっと唐突なのだが、私は素直にクスっとできた。
もう一か所、突飛なシーンがあるのだが、それも私は楽しめた。

劇場内は、私を含め、それなりの年齢の方が多かった。
そうした方をターゲットにした映画であろうから、狙いは当たっているともいえるが、若い人もこの映画を観ないともったいない。
何も起きないが、十分に刺激的だと思う。

最近観た映画では「孤狼の血」という映画が非常によかったが、えぐい暴力シーンが数々あり、観る人を選ぶ感があった。
「モリのいる場所」は、正反対の意味で観る人を選ぶ感もあるが、誰かにお勧めするにはこちらの方が無難と言えば無難である。
忙しい毎日に疲れたら、ふらっとモリの世界をのぞいてほしい。
大切な誰かと一緒に、いつくしみ合う気持ちを確かめ合うために、モリの場所を確かめてほしい。

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