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自治体財政は税収減を地方債で埋める仕組みにはなっていない 念のため [公会計]

東京都が令和3年度予算案を発表した。
そして本件に関する朝日新聞の見出しは、
「都の当初予算案7・4兆円 コロナで税収減、都債で賄う」
というものだった。

これを読んだ人はどう思うだろう。
もちろん、
「税収が減ってそのままでは予算が組めなくなったから、足らなくなった分を借金した」
と解釈するだろう。
この見出しからは、そう読み取るのが自然だし、ほかの読み方はないだろう。
ちなみに本文中には、
「都は今回、これまで抑えてきた都債を5876億円発行する。前年度比3792億円増で、税収減を都債で賄う構図となる。」
とある。

ご存知の方が多いのか少ないのかよくわからないが、
地方財政においては、収入が足らない分を借金で賄う、ということはできない。
毎年野放図に赤字国債を発行している国とは、そこが大きく違う。
地方自治体が借金できるのは、建設事業などに充てる分のみと限定されている。
仕組み上、税収減により足らなくなった分を都債で賄うということはできないのである。

記事を書いた記者の方は、地方財政制度にも詳しいだろうから、
自治体が歳入不足を借金で穴埋めできないことは当然ご存知だろう。
しかし、税収が減った一方で都債が増えたのも事実だから、結果として穴埋めをしたような形になっている。
だから、ややこしい過程は省いて「コロナで税収減、都債で賄う」という見出しにされたのだろう。
限られた字数であり、事情はわからなくもないのだが、
誤解を招きかねないとは思う。

ちなみに日本経済新聞では、こう書いている。
「新型コロナウイルス感染拡大の影響で税収は4000億円減少する見通し。各種基金を取り崩して財源を確保し、残高は半減する見込みだ。」
つまり、税収減の分は基金の取り崩しで埋めているという表現で、制度上はこちらの方が正しいと言える。

国や民間企業の経営方法を見ても、借金で事業を回すのは普通のことである。
だから、収入不足分を借金で埋めることができないなどと想像もされないかもしれない。
しかし、大事なことなので、念のため繰り返し。
地方財政においては、収入が足らない分を借金で賄う、ということはできない。
これをご存じない方がとても多いように思うのだが、是非知ってほしい。
だから地方自治体は苦労しているのだし、
だから地方自治体は借金が少ないのである。

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