SSブログ

映画評 「すずめの戸締り」 [映画評]

映画「すずめの戸締り」を観てから一月以上が経ち、
ようやく平静に振り返ることができる境地になってきた。
観終わった直後は、
もらったものが強烈過ぎて感想を文字にする気になれなかった。

扱っている題材はタブー視されがちなものだし、
ストーリーにはツッコミどころも少なくないから、
賛否や好き嫌いが分かれるのも理解できる。
「アラ」があるようにも感じる。
震災をエンタメにすることへの抵抗感もわかる。
しかし、そうしたものすべてを超越するすさまじさを感じた。
創造者の暴力的なエネルギーとでも言うのだろうか。

新海誠監督は、見た目おとなしそうである。
荒ぶる心や天才の狂気とは無縁のようにも感じられなくない。
油断させられた。
「すずめの戸締り」からは、
描きたいもの、
伝えたいもの、
話したいこと、
があふれ出してくるように感じられた。
私は、それに飲み込まれた。

新しい物語を作ることへの恐怖は、
新海監督にもあったと思う。
しかし、制作欲求がその恐怖を上回ったのだろう。
震災を語ることへのためらいは、
きっと強く感じたと思う。
しかし、伝えなければならないという気持ちがそれを上回ったのだろう。

振り返って映画を要約しようとすると、
あれ、なんだかシンプルで、どうかしたら陳腐な話になりそうだ。
思い返して登場人物を説明しようとすると、
あれ、なんだかステレオタイプにも感じられる。
それなのに、むんずと胸ぐらをつかまれて映画に引きずり込まれた。

新海さんの映画を何本も観てきたが、いい映画作家だとは思っても、
狂気のようなものは感じなかった。
私が甘かった。

一方、単純に面白い映画でもあった。
子どももきっと楽しめる。
そこがまた素晴らしい。
そこから逃げないところもグッとくる。

3年後、新海監督は今作を上回るような作品を届けてくださるだろうか。
正直、それは難しいのではないかと思う。
そんなことができたら、それはもはや人間業を超える。
今は、すごいものを受け取った喜びに震えていよう。

nice!(3)  コメント(0) 
共通テーマ:仕事