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財政赤字は必ず将来世代の負担になるか なるとしたらいつなるか ~日経コラム「大機小機」で思う~ [経済を眺める楽しみ]

借金は悪いこと、とほとんどの人が思っている。
赤字も悪いこと、とほとんどの人が思っている。
一般的に、その直感は正しいだろう。
しかし、国がする借金は悪いことだろうか。
悪いとしたら、どの程度悪いことだろうか。
意外と、その質問に答えるのは難しいと思う。

6月2日付の日本経済新聞の名物コラム「大機小機」に、
「イタリアより深刻な日本」
と題した文章が掲載された。

正直、内容に目新しさはない。
よく言われているものばかりで、まとめると、こんな感じである。
・イタリアの国債利回りが急上昇し、債務危機が再燃しかねないが、日本の方がずっと深刻。
・安倍政権はプライマリーバランスを先送りしたが、イタリアは黒字。長期債務残高のGDP比もイタリアが131%であるのに対し、日本は236%。
・日本の財政規律は大甘で、ユーロに加盟できない水準。少子高齢化が進行中なのに、しっかり手を打ってこなかったのが原因。
・日銀も財政危機に警告するどころか、膨らむ財政赤字を事実上の財政ファイナンスで支えている。
・何より与野党とも政治家の危機感が乏しすぎる。財務官僚にいたっては財政再建どころか、公文書改ざんなど大罪を犯している。

さて、この後に続く最後の段落がこのコラムの結論になるのだと思うが、筆者の主張は妥当だろうか。
そこには、このようなことが書いてある。
・・・・・引用・・・・・
財政規律を失わせた安倍政権の責任は重大である。長期政権に求められる不人気の改革を避けてきた。財政ポピュリズムのツケは必ず将来世代に回る。政治混乱のなかで、大統領や中央銀行総裁が危機感を持って警告するイタリアが、まだ健全にみえる。
・・・・・引用終わり・・・・・

まず、事実関係から整理してみたい。
「財政規律を失わせた安倍政権」との記述があるが、この表現が妥当であるとすれば、「安倍政権前は財政規律が保たれていた」という状況でなければおかしいだろう。
「以前の政権も財政規律は十分ではなかったが、安倍政権が一層緩ませた」という場合もギリギリ該当するかもしれないが、その場合は、「財政規律を一層悪化さえた」などと書くべきだろう。
「失わせた」という表現は、その前は「あった」と考えるのが普通だから。

さて、バブル崩壊直後の1991年、日本の長期債務のGDP比は63%だった。
現在が236%だから、ここまでノンストップで増えてきたことになる。
つまり、財政規律はもう何十年も前から失われている。

では、安倍政権発足後、財政規律の悪化が加速したかどうか。
第二次安倍政権発足が2012年の12月。
2012年の229%が、2018年に236%になっているから、6年間で7ポイントの上昇ということになる。
その前の6年間を見ると、2006年は176%だったから、実に53ポイントの上昇である。
その前の6年間も約40ポイントの上昇。
つまり、安倍政権になってから財政悪化のペースは目に見えて鈍っているのである。
「財政規律を失わせた安倍政権」という大機小機のコラムの表現が正しいかどうかは、各自でご判断いただきたいが、数字がはっきり語ってはいる。

そうした事実認識の中での主張なので説得力は落ちるが、
「財政ポピュリズムのツケは必ず将来世代に回る。」
という意見は、目新しさは少しもないものの、直感に訴えてくるものはある。
借金は悪い、赤字は悪い、先送りはずるい、という感覚にピッタリはまるからである。
親が借金を残せば子供は苦労するはずだから、実体験にも合致する。
しかし、この意見にも検討すべき要素は少なくない。

そもそも「財政ポピュリズム」とは何を指しているのだろう。
おそらく、バラマキや増税の先送りのことを言いたいのだと思われるが、安倍政権になってから債務残高が積み上がる速度が大幅に減少しているのは先に見た通りである。
まさか、増税すれば財政危機は解消される、などと短絡的に考えておられるのではないだろうが。

また、「ツケは必ず将来世代に回る」というが、いつ頃の世代に回るのだろう。
ここを明確にしないと、言葉に意味がなくなる。
「こんな政治をしていたら、地球は滅亡する」
という極論と変わらなくなる。
そりゃ、いつか(何億年先か知らないが)地球は滅亡するだろうが、それがいつなのか言わないと。

私が子供の頃、もう何十年も前だが、石油はあと30年で枯渇するなどと言われていた。
それと同じように、もう何十年も、このままでは日本の財政は破綻すると言われている。
「それがいつになるのかは誰にもわからない」と言うのなら、「必ず」という表現はふさわしいのだろうか。

もちろん、政治に警告を発するのは、新聞の重要な役割であろうと思う。
しかし、まずは事実を踏まえないと。
そして、新聞である以上、感情や感覚だけでものを言わないようにしないと。
逆に、誰にも聞いてもらえなくなる。

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