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映画評 「糸」 ~ ちょっと参りました ~ [映画評]

邦画の文芸路線ものをまったく信じていない。
有名俳優を起用し、
「壮大なスケールで描く」
的な映画は、ほとんど外れると思っている。
お約束でありきたりなストーリー、
陳腐な演出。
いろんなところに気を遣った結果と思われる、なんのとんがりもない仕上がり。

本作の予告編にもそうした臭いを感じ、全然ピンと来なかったので、正直ほとんど期待していなかった。
オチは見え見えだし。

いや、しかし、これが面白かった。
すれ違いの物語なのだが、そこらへんのガキンチョの話と違って二人とも懸命に生きているのがいい。
糸が手繰り寄せられるのはわかりきっているのだが、紆余曲折ぶりも、ちまちましていなくていい。
最後に背中を押した存在があの子だったのもよかった。

映画を引っ張るのは、菅田将暉くんと小松菜奈さん。
菅田さんは、決してカッコよくない役をしっかり演じられた。
小松さんの存在感は、映画に説得力を与えていた。
いい女優さんになられた。
榮倉奈々さんと成田凌くんのお二人が、別々の場面で中島みゆきさんの「ファイト!」を歌うシーンがあるのだが、どちらもジンと来る。
さらに、山本美月さん、高杉真宙くん、二階堂ふみさん、斎藤工さんといった面々が脇を固める。
ベテラン勢の、倍賞美津子さん、永島敏行さん、松重豊さん、田中美佐子さんが映画に奥行きを与える。

平成史を振り返る形で進んでいくのだが、それが二人の成長としっかり絡んでいた。
自分の人生を重ねる人も少なくないだろう。

監督は、瀬々敬久さん。
外れもある監督さんだと思うが、今回はさすがの力を見せた。

「糸」は、今見るにふさわしい映画。
平成を思い出しつつ、
大切なあの人に思いをはせよう。
映画らしい映画を堪能できる、稀有な作品である。

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