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映画評 「福田村事件」 ~ 2023年外せない一本 ~ [映画評]

映画「福田村事件」が大きな反響を呼んでいる。
そして、それにふさわしい出来栄えと言える。
題材的に、どうしてもセンセーショナルに取り上げられるし、
日本人の負の側面として語られがちになるのもやむを得ないが、
映画としてしっかり作られている。
見応えがある。

監督は、社会派ドキュメンタリー作品を手がけてきた森達也さん。
森監督は舞台あいさつで、
「始める前は、これはどう考えても反日映画と批判され、上映中止運動が起きて、劇場もどこも扱ってくれないみたいな、そういうことになったら俳優には何のメリットもない、と危惧していた」
と話された。
覚悟を持って撮られた作品である。
しかし、思想的な要素で観られてしまうのはもったいない気がする。
映画として評価されるべき作品である。

ちなみにWikipediaによれば、「福田村事件」とは以下のようなものである。

“福田村事件(ふくだむらじけん)は、1923年(大正12年)9月6日、関東大震災後の混乱および流言蜚語が生み出した社会不安の中で、香川県からの薬の行商団(配置薬販売業者)15名が千葉県東葛飾郡福田村(現在の野田市)三ツ堀で地元の自警団に暴行され、9名が殺害された事件である。”

今年は関東大震災から100年。
様々な問題が噴出している日本や世界で、
この作品が撮られる意義がある。

映画は、大正時代の関東の田舎の様子を描く。
その当時に特有の、
閉鎖的な、いわゆる「村社会」だが、
現実感のないものとは映らない。
今の世の中と変わらないと言えば変わらない。
人は変わらない。

事件そのものも、
そのころだけにあった狂気や差別感情の爆発であり、
今では起こり得ない、
とは思えない。
今でも起こる、と思わせられる。

主演は井浦新さんだが、映画を引っ張る存在ではない。
映画を引っ張るのは、空気のようなもの。
井浦さんの妻役の田中麗奈さんも真ん中にはいない。
むしろ脇を固められる永山瑛太さんや東出昌大さんの存在感が際立つ。

在郷軍人を演じた水道橋博士が意外なはまり役。
そして、コムアイさん、向里祐香さんをはじめ、女優さんがみな素晴らしかった。

楽しい時間を過ごしたいという方には、さすがに「福田村事件」は勧めにくい。
いいものを観たいという方には、是非観ていただきたい。
右とか左とか、
保守とかリベラルとか抜きにして。

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