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映画評 「三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実」 [映画評]

んなことを最初に書くのも野暮極まりないが、この映画を観たのは、東京都が週末の外出自粛要請を出す前のことである。
んなことを気にせず、普通に暮らせる日々が一日でも早く戻ってくることを心の底から願う。

さて、

三島由紀夫さんが自決されたのが1970年。
今から50年前のことである。
超メジャー作家が自衛隊に乗り込み、決起を促して割腹自殺した、
というのだから、当時は大騒ぎだったことだろう。
私はまだものごころついていなかったので、全く覚えていない。
三島さんの活躍をリアルタイムで見ていた人たちに、ちょっとした嫉妬心を覚える。

この映画は、三島由紀夫が自決する1年半前に行われた、東大全共闘との討論会の様子を描いたドキュメンタリーである。
「TBS社内に三島由紀夫の貴重な映像がある」
という情報が伝わり、そこから始まった企画らしい。
単に討論会の様子を流すだけだと、おそらくうまく伝わらなかったと思うが、
直近で行われたインタビューが途中途中に挟まれていて、
うまく解説の役割を果たしていた。

インタビューされていたのは、
当時の東大全共闘の面々、
三島由紀夫さんが結成した楯の会のメンバー、
識者として、平野啓一郎さん、内田樹さん、小熊英二さん、瀬戸内寂聴さん。
みな、あの頃のことを、三島さんのことを、真剣に語られていた。

学生運動が激しかった時代、
「暴力」が当たり前のように使われていた。
学生側は暴力を使っての体制への意思表示を肯定していたし、
となると取り締まる側も暴力をもって対抗するしかない。
大学で作家が講演会をしたり、討論会をしたりするのは、
今の時代では別になんでもない平和な光景だが、
あの時代は違う。
東大全共闘と三島さんの思想は、ほぼ真逆であり、
特に学生側にはある種殺気立ったものもあったと思う。
呼んでおいて暴力を振るおうとは思っていなかっただろうが、
少なくとも言い負かしてやろうとは考えていたはずだ。
三島さんは、リスクを承知しつつ、
その効果や意味も考えたうえで東大に乗り込まれたのだろう。
互いの意地やプライドや覚悟が、場を緊張感あるものにさせていた。

三島さんと学生のやり取りは、個別に見ると、正直なところ、あまり面白くはない。
極端に頭のいいもの同士が並行宇宙で空中戦をやり合っている感じで、
噛み合わないし、着地もしない。
平野啓一郎さんが適切な解説をしてくださるので、意味しているところはなんとなくわかるが、
わかったからどうということもない。
しかし、議論の中身がどうこうというより、両者のたたずまい自体がなんとも興味深く、
上手に編集もされているので、退屈することはない。

互いに反感し合いつつ、
一方では敬意を抱き合いながら、
真剣勝負の議論をする。
覚悟なく言いっぱなしのネット空間とは正反対の光景がまぶしい。
音声状態も良好であり、
よくぞ映像化してくださったという感じである。

ナレーターは東出昌大さん。
東出さんの件で大騒ぎしていた平和な時代が懐かしい。

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