SSブログ

映画評 「電車を止めるな!」 [映画評]

日本に数あるローカル鉄道の中で、銚子電気鉄道、銚電は飛び抜けた知名度を持っている。
2000年代前半の、当時の社長の不祥事と、それを原因とした資金不足、
「電車修理代を稼がなくちゃ、いけないんです。」の叫びからの、
ぬれ煎餅による一発逆転。
現在では、売上高の8割を鉄道以外の収入が占めているという。

そんな多角化、悪く言えば何でもありのなかでひねり出されたのが映画製作。
その名も「電車を止めるな!」である。
タイトルにも込められているとおり、
低予算で大ヒットした「カメラを止めるな!」にあやかろうという寸法でもあろう。
コロナの危機に立ち向かうために作られたのではなく、もともとは去年公開予定だったらしい。
完成にこぎつけたものの、映画館での公開は無理だったのか、
ライブハウスやカフェ、ホテルや駅といった劇場以外で上映が始まっている。
こうしたところでの上映で火が付き、劇場での公開に広がれば素晴らしいサクセスストーリーだが。

入口で渡された銚電からの手紙に、「超C級映画」と書かれていた。
(観終わってから読んでください、と言われたのでそうした)
そう、確かにB級まで行き切れていない。
この映画をどう評したらいいのか、まともに書いていいものなのか、ちょっと悩むが、
作品として届けられた以上、そしてお金を取って見せている以上、こちらもしっかり感想を書くのが礼儀だろうと思い至った。

観終わった後では比較するのもおこがましいが、「カメラを止めるな!」にははるか遠く及ばない。
予算は、カメ止めが300万円、本作は2,000万円ということだが、出来栄えは真逆以上の格差である。
しかしまあ、カメ止めは滅多にない傑作だから比較対象としてはフェアではない。

では、なにかと比較せずに一本の映画として観たらどうだろう。
いいか、悪いか。
どうひいき目に見ても、よくはない。
もともとA級の土俵に上がっていないし、
B級のなんとも捨てがたい味わいもない。
超C級として観ようとしても、そこまで突き抜けてもいない。
なんというか、その、いいところを挙げようと頑張っても、私の力では思いつけない。

ホラー仕立てなのだが、怖さはみじんも感じられないし、
ハートウォーミング要素も薄め。
誰のどこに感情移入すればいいのか、定まらないうちにズルズルと映画は進む。
残念ながら、脚本、演出ともにイケていない。

映画を作るなら、いっそなんの奇もてらわずに、銚子鉄道の一日を描いたらどうだっただろう。
おそらく、ずっと興味深く、面白いものができただろう。
感動もしただろう。
そうではなく創作をしたかったのだろうとは察するが、成功には至らなかった。

私はこの映画を、新宿にあるネイキッドロフトという小さなライブハウスで観た。
スクリーンはごく小さなもので、音響もお世辞にもよいものではなかったが、
あたたかい空間が生まれてはいた。
私は鉄オタではないが、銚電には以前から注目しているし、これからも頑張ってもらいたいと思っている。
鉄道会社の枠を超えて、窮地に立たされながらもしぶとく頑張る日本の中小企業の代表選手のように感じている。
出来不出来は置いておいて、映画に手を出されたことも一つの試みである。
何事もやってみなければわからない。
ただ、映画はとても難しい。
とてもとても難しい。

nice!(2)  コメント(0) 
共通テーマ:仕事