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映画評 「あのこは貴族」 [映画評]

『ここは退屈迎えに来て』『アズミ・ハルコは行方不明』
と映画化が続く山内マリコさんの小説が原作。

二人の対照的な女性が主人公。
「あのこは貴族」というタイトルどおり、上流階級に属する女性が一方の主役。
こちらを門脇麦さんが演じる。
もう一方は、地方から苦労して東京に出てきて、日々あがいている存在。
こちらを水原希子さんが演じる。
二人とも味のある演技をしていて、立場が逆のキャスティングで見てみたいとも思った。
水原さんとコンビを組む山下リオさんもよかった。

門脇麦さんは、
「止められるか、俺たちを」
「さよならくちびる」
といった映画で演じられた硬派な女性と打って変わったおしとやかな役。
同じ役者とは思えないほどの振れ幅であり、見ていて楽しい女優さんである。

監督は、岨手由貴子さん。
このところ、女性監督による佳作によく出会う気がする。
河瀬直美さん、西川美和さんといった実力派の方々が期待にたがわぬ作品を送り出され、
「37セカンズ」のHIKARIさん、
「君が世界のはじまり」のふくだももこさん、
といったあたりは、年間ベストと呼びたくなるような作品を送り出された。
映画監督に占める女性の割合はそれほど高くないと思うので、打率の高さはすごい。

一人の男をめぐり、貴族的な育ちの女性と地方から出て来た女性が邂逅するのだが、
ありがちな愁嘆場に発展することはない。
互いが立場をわきまえて、落ち着いて先を見据える。
一方で、男を離れて自分の生き方を見直したときには、このままでいいのかと立ち止まる。
キャーキャー喚かないだけに、なおさら胸に届く。

地方から出て来た水原さんと山下さん演じる二人が自転車で東京を走るシーンや、
「田舎から出てきて搾取されまくって、私たちって東京の養分だよね」
と嘆く場面がいい。
だからと言って、田舎から出て来た子たちは負けっぱなしではない。
したたかに生き抜いている。
反対に、貴族と呼ばれる存在の女の子は、生活の心配はなくても、生きていくことには苦しんでいる。

男だって女だって、
貴族だって平民だって、
生きていくのは楽じゃない。
しかし、楽じゃないから悪くない。
ベタだが、そんなことを思い出させてくれる映画である。

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