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映画評 「ロストケア」 [映画評]

過酷な介護の現場を背景に、
安楽死や人間の尊厳について問いかける作品。

献身的な対応で評判がよかった介護士が、
実は40人を超える老人を殺していたことが判明する。
しかし彼は、
自分は殺したのではなく救ったのだと主張する。
検事は単なる人殺しだと決めつけようとするが、
現場の実態を踏まえた介護士の言葉に激しく動揺する。

松山ケンイチさん演じる介護士と長澤まさみ演じる検事が、
介護士の行為の是非について激しく論争するところが最大の見せ場。
検事は自らの体験からも介護士の言い分を完全には否定できず、
言い負かされてしまうような形となる。

取り調べの際の二人の論争は見応えがあるのだが、
それ以外のところは薄味。
もっと突き詰めて撮れば傑作と言われる作品になったかもしれないのに、
なぜかゆるく流れてしまう。
そのあたりが、「そして、バトンは渡された」でもほの見えた前田哲監督のやり方なのかもしれないが、
正直物足りない。
もったいない。

松山ケンイチさんと長澤まさみさんは熱演。
お二人の演技はさすがだった。
ほぼ二人の映画であり、最後まできっちり引っ張られていた。

実際問題として、安楽死についての議論をもっと進めるべきだと思うし、
介護する側もされる側も苦しむばかりになってしまった場合、
なんとかならないのかとも思う。
生きるとはどういうことなのか、
人間の尊厳とは何か、
といったことに関わる深いテーマであり、
本作は、そこに切り込むこともできたはずである。
切り込もうとした挙句、無残に失敗してしまうという可能性も低くはないが、
チャレンジする価値はあったのではないかと思う。
そこを避けてしまった本作。
もちろん、娯楽作に仕上げなければならないという制約や尺の問題もあるだろう。
それがわかっても、やはり、
もったいない。

ただ、安楽死について、もっと知りたいと思わせるものはあった。
それで十分かもしれない。

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