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映画評 「月」 [映画評]

「舟を編む」の、
と紹介されることが多い石井裕也監督の作品。
個人的には「夜空はいつでも最高密度の青色だ」が忘れられない。

本作は、実際に起きた障がい者殺傷事件をモチーフにした辺見庸さんの同名小説を映画化したもの。
今年話題の「福田村事件」も実際の事件が題材だが、そちらは100年が経過している。
本作の場合、事件が起きたのは2016年だから、まだ記憶も生々しい。
難しいテーマでもあり、これを映画化するのにはいろいろな葛藤があったことと思う。

宮沢りえさんが演じる元有名作家が重度障がい者施設で働きはじめるところから物語は始まる。
夫はモーションピクチャーによる映像作品を作り続けていて、
主な同僚の二人も、一人は作家志望、一人は絵本を作っている。
つまり主要な登場人物がすべて芸術家、若しくは何かを生み出そうとしている存在である。
その彼らが、
重い障害を抱える人たちと対し、
その人たちの尊厳を無視する看護の実態を目の当たりにし、
心が揺れる。

俳優陣の好演もあり、
目の離せない作品である。
厳しい現実と、
それと向き合えていない自分にも気づかされ、
重苦しい時間が流れる。
しかし、ほのかな希望もうかがえる。

寄り添う気持ちが強いばかりにかえって精神が崩壊していく男性を、磯村勇斗さんが演じる。
好きな俳優さんであり、本作も見事であるが、
彼の怒りがどうして看護する側ではなく障がい者側に向いたのか。
そこが十分に描き切れていないように感じた。
そこが最も重要なポイントであるのに。

「月」は、重過ぎるテーマに向き合った作品。
映画とは、何かを伝えたくて作られるものだろうから、
その意味で、撮られるべき作品なのだろう。
監督をはじめ、スタッフの皆さんにねぎらいの言葉を贈りたい。
映画として大成功しているかというと、それはなんとも言えないが。

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