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映画評 「触れたつもりで」 [映画評]

「触れたつもりで」と言われても、ほとんどの方がご存じないだろう。
8月4日から始まった、池袋シネマロサでの『新人監督特集上映』の第一弾として公開された映画である。
ロサと言えば、渋い映画を渋く上映する劇場であり、今話題の「カメラを止めるな!」の上映を、新宿K's cinemaとともに始めた場所でもある。
この新人監督特集から、第二の「カメ止め!」が生まれたら素敵である。

さて、どうしてこの「触れたつもりで」を観ようと思ったかというと、脚本が川原杏奈さんだったからである。
川原さんは、私も少しだけ関わっている『ところざわ学生映画祭』において、「帰郷」という作品を監督され、見事に第1回グランプリを獲得された方。
「帰郷」は、本当に素晴らしい短編だったので、その彼女が関わった作品とあれば是非見てみたいと思った。

上映は3本立てで、ほかに「ゼンラレジスタンス」と「がらんどう」を観ることができた。
「がらんどう」は、川原さんの監督作品で、すでに観たことがあったが、「ゼンラ」の方は初見。
まったく意味不明のぶっ飛び方に好感が持てる作品であり、多くの方が「なんじゃこりゃ」と思われるだろうが、私は好きである。

この2本の後に、「触れたつもりで」。
こちらも28分間の短編。
短い時間に、いかに観客に想像させ、余韻を残させるか。
前述した「帰郷」は、10分少々の映画だったと記憶しているが、いまだに余韻が残っているから、短いからといって焼き付けられないわけではない。
そして、この「触れたつもりで」では、残念ながらそこまでの余韻を持つことはできなかった。

学生映画や自主制作映画を観る時に、私が言いたくないと思っていることは、
「学生にしては」
「予算がないにしては」
「時間が短いにしては」
といった言葉である。
作品として提示した以上、メジャー作品とも同列の表現物として観たい。
作り手も、「~にしては」を言い訳にしたいとは思っていないはずである。
そして、この「触れたつもりで」は、「~にしては」を除いて正直に言えば、心に染みわたっては来なかった。

『心が通じたのはたった一人、元犯罪者の同僚だった』
というコピーがついているのだが、それまでにどれだけ疎外感を味わっていたがが十分に描かれていないので、「たった一人」という切実感が伝わらない。
「心が通じた」感もよくわからない。
悪態をつきまくる役がいるのだが、なぜ彼がそんなことし続けているのかもわからない。
だから、こちらの心が映画に入らない。

細かいところで恐縮だが、母親が夜にゴミを出そうとするシーンも気になった。
普通、そういうことは朝やるだろうし、娘に気づかれたくないのなら、なおさらこっそりやるだろう。
「ゼンラレジスタンス」くらい突き抜けてしまえばなんでも許せてしまうが、観客の想像力を喚起しようとする作品では、細部の粗が大きな穴になってしまう。

主演の大田恵里圭さんは、難しい役どころをしっかり演じておられた。
共演の泉光典さんも、陰のある男役を抑えた演技で表現されていた。

この日のロサでも、「カメラを止めるな!」は、全回満席になっていた。
観客はみな、幸せな気分になったことだろう。
「触れたつもりで」でも幸せな気分になれればよかったが、それは叶わなかった。
しかし、観てよかったと思っているし、この作品を多くの人に観てもらいたいと心から願っている。
観ることによって作り手を支えられたら幸せなことだし、新しい才能との出会いは自ら求めなければ手に入らない。
公開は、8月10日まで。
ご自身の目で確かめていただきたい。

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