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映画評 「漁港の肉子ちゃん」 ~ この映画が大好き ~ [映画評]

映画を観るたびに、こうして映画評を書く。
通常は、ブログのタイトルには映画の題名だけを書く。
まれに、強く心を動かされた作品に当たると、なにかコメントを加える。
例えば、こんな感じである。

「花束みたいな恋をした」 新しい恋愛映画のスタンダードが生まれた
「カメラを止めるな!」  超オススメ! 一年に一本あるかないかレベルの快作!
「ペンギン・ハイウェイ」 2018年夏 是非ご覧いただきたい一本
「殺さない彼と死なない彼女」 来た! 多くの人に見ていただきたい掘り出し物

「漁港の肉子ちゃん」にも、どうしても一言加えたくなった。
添える言葉はなんだろう。
傑作、名作、感動作、といった表現とは少し違う気がした。
いい悪いを超えて(いや、絶対にいいと思っているが)、胸にドスンと来た。
表現するなら、「大好き」という言葉が最もふさわしいように思えた。

本作は、西加奈子さんの原作にほれ込んだ明石家さんまさんが企画プロデュースされたもの。
肉子ちゃんの声を、さんまさんの元妻である大竹しのぶさんが、
肉子ちゃんの子どものキクコちゃんの声を、木村拓哉と工藤静香の長女でモデルのCocomiさんが演じる。
ネットでの映画評を見ると、大竹さんとCocomiさんの声に違和感があったという人が少なからずおられるようだ。
なぜプロの声優を使わない、というのである。
確かに声優さんはうまい。
日本の声優さんは世界一うまいと思う。
ただ、本作に関して、二人の声に違和感は全く覚えなかった。
肉子とキクコとして聞けた。
そもそもこんな素晴らしい作品を、入口で受け入れないなんて、そんなもったいない。

公開されているストーリーをかいつまんで書くと、こんな感じである。

「愛情深い性格ゆえに、これまでの人生、ダメ男ばかりを引き寄せては、何度もだまされてきた母・肉子ちゃん。とんでもなく豪快で、子どもみたいに純粋な母に比べて、しっかりもので大人びた性格の小学5年の娘・キクコ。
ふたりは肉子ちゃんの恋が終わるたびに各地を放浪し、北の漁港の町へと流れ着く。
キクコは、この年頃特有の女子グループ間のやっかいな抗争に巻き込まれたり、風変わりな少年・二宮との出会ったりしながら少しずつ成長し、この漁港の町をどんどん好きになっていく」

肉を切るシーンから始まるのだが、もうそこから見事。
アイデアが詰まったイントロで、一気に映画に引き込まれる。

大事件が起こるわけではなく、母一人娘一人の、ちょっぴり変わった日常が描かれる。
トトロを連想させるシーンがいくつも出てくるが、
あの大傑作をもじって、まったく不快に感じない。
最後に、こうしたシーンへの楽しい謎解きもある。

女の子同士のちょっとしたいざこざ、
母が参加する運動会、
謎めいた男の子との交流、
いろいろなシーンが思い出される。
どれもが大切な記憶になった。
ペンギンと絡むシーンは、私の大好きな「ペンギン・ハイウェイ」へのオマージュなのだろうか。
どこまでも私の琴線に触れてくる作品である。

終盤、母と娘の関係に大きな展開がある。
その後、期待どおりの流れになっていくのだが、予定調和ともありがちな展開とも思わない。
素直にしんみりさせてもらった。
じんわりさせてもらった。
肉子ちゃんの目が開くラストシーンもグッとくる。

もちろん、西加奈子さんの原作が素晴らしいのだろう。
しかし、それだけでいい映画になることが約束されるわけではない。
大島里美さんによる脚本がすさまじい出来であり、
渡辺歩監督による演出がズバッとはまったのだろう。
すごい仕事をされた。

「漁港の肉子ちゃん」が大好きになった。
こんなに好きになる映画は、滅多にない。
今年中にこれを超える気持ちになることはもうないかも、とまで思うほど。
是非、多くの方にご覧いただきたい。
きっと幸せな気分になれると思う。

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