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税制で賃上げを図る難しさ [ヨモヤ]

岸田内閣は、「成長と分配の好循環」を掲げており、
そのための大きな役割を果たすのが民間企業の賃上げである。
その一環として、
春闘において、3%程度を目途に経済界に賃上げを促すことを検討していると報道されている。

しかし、春闘における賃上げ要請はこれまでも行われてきたことだし、
あくまでも要請であるので、実効性はあまり高くない。
そこで、賃上げ税制を強化する調整が進められているという。

ここまで伝えられているのは、
賃上げした場合に企業の法人税額から差し引くことができる控除率を、
大企業は最大30%、中小企業は最大40%に引き上げる、
というものである。
賃上げをすれば、その分法人税を払わなくてもいいようにする、というわけである。

法人税は、企業が上げた利益に対して課税される。
企業は利益を上げるために活動しているので、大抵の企業が法人税を納めていると思いがちだが、
国税庁によれば、赤字法人率は65.4%とのことである。
つまり、3分の2の会社は利益を上げておらず、結果法人税も支払っていないので、
税率が下がってもなんの恩恵も受けない。

利益を上げている企業には一定の恩恵があるとは思われるが、
賃上げによる流出と法人税の減を天秤にかけると微妙であるうえに、
もともと高い賃金を出しているところには恩恵がなく、
優遇が単年度だとすると翌年以降は純粋に負担増になってしまうし、
賃金を上げると社会保険料も上がっていくことも考慮に入れなければならない、
など、簡単な話ではない。

そもそも賃上げは、どういう流れで発生するのだろう。
個々の企業においては、利益が伸び、さらに今後も安定して伸び続けると見込める場合、給与で報いようとする、というのが望ましいパターンだろう。
利益が単年度限りと見込まれないところがポイントになる。
企業全体としては、社会全体の給与水準が切り上がり、同じように上げて行かないと人材確保がままならない場合も、賃上げにつながるだろう。

人件費をどうするか、ということは、重要な経営判断になる。
社員のモチベーションを左右することはもちろん、最大の固定費をどうするかということなのだから当然である。
その重要な判断を、税制によって一律に動かそうというのは、さすがに無理がある。
だから、今回の税制改正にも過大な期待は禁物だと思う。
もちろん、ちょっと背中を押すといった効果はあるだろうけれど。

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