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映画評 「人魚の眠る家」 [映画評]

堤幸彦さんは、多作な映画監督である。
2008年からの10年間で、20本以上の映画を撮っている。
超大作や歴史的傑作を作るというより、佳作を次々に出すイメージだろうか。
私は、「BECK」が大好きなので、全作品を観るまでの覚悟はしていないが、感謝の気持ちを忘れずについていく所存である。

堤監督のヒューマンドラマというとアルツハイマーを扱った「明日の記憶」が思い出されるが、本作は「死」がテーマであるだけに一層重い。
しかも、小さな子供の死であるだけに、子や孫を持つ世代には直接的に響くだろう。

映画は、終始暗いトーンで進む。
テーマがテーマであるだけに仕方がない。
夫婦の感情のもつれなども描かれるが、そこは大して突っ込まれない。
若い男女の恋愛も挟まれるが、そこも掘り下げられはしない。
あくまでもテーマは死。
ただ、もう少ししっかりドラマを描いてほしい気はした。

と言っても、メジャー公開される娯楽作であるので、哲学的な問いがなされるわけではない。
薄いと言えば薄いが、あまりややこしくされても観る方がついていけないだろう。
脳死ということについて考えたことがなかった人や、
臓器移植について聞いたことがなかったという人には、
一つのきっかけにはなるのかもしれない。

泣かせどころもあるのだが、子供の死が扱われているのだから、そりゃそういうシーンもあるだろう。
私の涙腺もゆるんだが、
感動のあまり泣く、
というより、泣かせるシーンだから泣く、といった体。
通り過ぎたら、「あれ、なんだっけ?」という感じ。

夫婦役に、篠原涼子さんと西島秀俊さん。
いつものどおりのお二人である。
川栄李奈さんが脇をしっかり固めている。
松坂慶子さんは、どの映画でもなんだかコミカルになってしまう。
大人以上に、3人の子役がよかった。

「人魚の眠る家」は、死生観に迫る社会派映画。
自分だったらどうだろう、と置き換えてみる人も少なくないだろう。
それでいて、きちんと娯楽作として仕上げているのは、さすがに堤監督。
ただし、ドンと来る深みまでは至らない。
それも堤監督と言えばそうだが。
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