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映画評 「岬の兄妹」 ~ 参りました。映画ファンに心からお勧め。 ~ [映画評]

遅ればせながら「岬の兄妹」を観た。
ロードショー当時も気になってはいたのだが、
ちょっと設定がしんど過ぎるような気がして二の足を踏んでしまった。
この映画を勧める方がおられ、ふとネットを観るとキネカ大森で上映していた。
これも何かの縁である。

ネットに公開されているあらすじは、こんな感じである。
「港町に暮らす良夫はある晩、自閉症の妹の真理子が、男に体を許して金銭を受け取ったことを知る。そのころ、良夫が勤める造船所でリストラがあり、良夫は足が不自由であることを理由に辞めさせられてしまう。困窮した良夫は妹の売春のあっせんを始めるが、次第に妹の喜びや悲しみを知り困惑する。さらに売春のことを知った友人が、良夫に忠告しに家にやって来る。」

う~ん、しんどい。

自閉症の妹。
足の不自由な兄。
二人暮らし。
貧困。
売春。
差別。
リストラ。
障害者の性。

きっついテーマがてんこ盛りである。
実際、映画も手加減なしにしんどい方にしんどい方に進んでいく。
しかし、観ていて不快ではない。
映画としてしっかり成立しているからである。
単に目を背けたいものを見せつけているのではなく、
意味のあるシーンやセリフで構成されている。
すごい脚本、すごい演出であり、
兄妹を演じる二人がそれにがっちり応えている。

大抵の映画を観ると、それが好きな映画や面白かった映画でも、
「あのシーンはない方がよかった」
「あのセリフは余計だった」
と思うことがほとんどだが、本作ではそれが見当たらなかった。
閉じた世界として完全に成立していた。
最初のシーンから、
印象的なラストの兄妹の表情まで、
見事としかいいようがない作品であった。

そして、底辺に漂うユーモアに、さらに心を持っていかれる。
悲惨なシーンであればあるほど、その状況はある種ユーモラスになってしまう。
そのユーモアは救いにもなり、
悲惨さを際立たせたりもする。

障害を持つ妹役を演じる和田光沙さんが圧巻。
恐れ入った。
兄役の松浦祐也さんも、情けない役を情けなく好演。
心を持っていかれた。
無名の役者さんがほとんどであるなか、ちょっとした役で風祭ゆきさんが出演。
80年代ににっかつロマンポルノで活躍された方であり、この名前を聞くだけでちょっとドキッとする方もおられるのではないか。

「岬の兄妹」は、観る人の心をグワシっと捕まえる力作。
奇跡的に成立した傑作と言っていいと思う。
テーマがテーマだけに、誰にでもお勧めするというわけにはいかない気がするが、
映画ファンは必見である。
心からお勧めする。

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