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映画評 「花のあとさき ムツばあさんの歩いた道」 [映画評]

緊急事態宣言が明けて、2週間以上経つ。
しかし、いまだに映画館に作品が戻ってこない。
客も戻っていないが、そもそも映画が戻っていない。
映画館は開いていても、かかっている映画は微妙な作品が中心。
これでは、客足が増えないのもやむを得ない。
客が来ないことを見込んで新作の公開を控えているのだろうが、
映画ファンの側からすれば残念なことである。

さて、「花のあとさき ムツばあさんの歩いた道」は、NHKで放送されたドキュメンタリーシリーズの映画化。
この作品がどうこうというわけではないが、ほかに観ようという気にさせてくれる日本映画が公開されていなかったことは否めない。

タイトルになっている「ムツばあさん」とは、埼玉県秩父市吉田太田部楢尾というところに暮らしておられた小林ムツさんのこと。
ムツさんは、平成に入った頃から、夫の公一さんとともに、それまで耕していた畑を閉じ、
花を植えられてきた。
集落の人も急減し、子どもたちも巣立っていくなかで、人間の生業を山に戻すかのように。
ムツさんの、というか、地域全体の終活のようにも見える。

ムツさんは、花を植えておられる以外、ごく普通のおばあさんなのだが、
NHKは2002年からずっと追い続けてきた。
今回の映画は、その集大成となるものである。
一言一言に素朴な人柄がうかがえ、見ているだけでなんとなく頬がゆるむ。
ムツさんをはじめ、一日一日をしっかり暮らし、次の世代に何かをつなげていこうとされる集落の方々が、実にいとおしく見える。

というわけで、概ね好感を持って観たのだが、映画としてどうか、となるとこれは少し別の話になる。
「映画的興奮はあったのか?」
と聞かれたら、ちょっと考えてしまう。
「眠くならなかったか?」
と聞かれたら、「いいえ、全然」とは答えられない。
この作品はしみじみゆっくり鑑賞するべきであり、映画的興奮などを求めるのはお門違いなのはよくわかっているけれど。

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