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映画評 「いつくしみふかき」 [映画評]

なかなか映画の新作の上映が始まらない。
旧作も悪くはないが、今の日本人が作る、今の日本映画が、今観たい。

本作「いつくしみふかき」は、もともとは4月17日の公開予定だったようだ。
こういう待機していた作品がボツボツ公開されていく流れだろうか。
地味な作品であり、失礼ながら客を引くようなキャスティングでもないにかかわらず、
客席はそこそこの入り。
もちろん、ソーシャルディスタンスで、もともと半分しか入れないのだが、思ったより多かった。
映画ファンは映画を待っている。
劇場を出たら、主演の渡辺 いっけいさんはじめ、スタッフの方々が見送ってくださった。
映画への思いを感じた。
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さて、作品である。
「悪魔」と呼ばれるようなとんでもない父と、
自分ではなにもできない具合に育ってしまった息子の話。
父は、息子が生まれたときにひどいことをして村を追い出されており、
息子は父を知らずに育っている。
しかし息子は、父がとんでもない存在であることは薄々感づいている。

この父親役を演じるのが渡辺いっけいさん。
徹頭徹尾どうしようもない人間を、見事に演じ切られた。
「でも、いいところもある」
ではなく、とことん悪い人間として描かれていたのがよかった。
息子役を演じた遠山雄さんは、劇団を主宰されている方らしい。
こちらも難しい役をしっかり演じられていた。

タイトルの「いつくしみふかき」は、キリスト教の賛美歌から。
父子を世話する牧師さんがおられることから、教会のシーンもふんだんにあるのだが、
宗教色はあまり濃くない。
いつくしみ深い存在も、主要キャストにはいない。
では、誰の何がいつくしみ深いのか、ちょっと考えてみたくなるタイトルである。

やすきに流れず、きちんと作られた映画であるとは思う。
ただ、エンタテインメント的には微妙。
観終わって、ずしっと応えるまでにも至らず。
どこがどうというより、もう一押し欲しかった。
しかし、映画への気持ちは受け取った。
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