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村上春樹さんのこと [読書記録]

村上春樹さんの「女のいない男たち」を読んだ。
村上さんの短編集を読むのは、実に久し振りである気がした。

多くの80年代90年代を生きた人と同様に、私も村上さんの作品を若い頃から読んできた。
(村上龍さんというビッグネームもおられるので、春樹さんと呼んだ方が混同がないのかもしれないが、そこまで親しいわけではないので、この項では「村上さん」とさせていただく。)
はじめて読んだ村上さんの作品は、デビュー作でもある「風の歌を聴け」であったと思う。
誰かに勧められたのか、若しくは各種の評判に押されたのか、期待して読んだ。
しかし、正直私にはピンと来ず、「なにやら気取った文章だなあ」としか思わなかった。

その後、「1973年のピンボール」「羊をめぐる冒険」と読み進め、どうやらこの人は、単に翻訳調の気障っぽい文章を書くだけの人ではないと思い至った。
多くの人は、「風の歌を聴け」で気づいていたのだろうが、私は少し時間がかかった。
そして、「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」で完全にやられた。
続く「ノルウェイの森」「ダンス・ダンス・ダンス」も十分に楽しんだ。
この時代に生きる特別な作家なのだと理解した。

村上さんの魅力は、こうした長編だけではない。
短編やエッセイにも強い魅力がある。
淡々と書かれているのに、ギュッと飛び込んでくる。
読むたびに、世の中には「いい文章」「美しい文章」というものがあるということを思い知らせてくれる。

さて、ここで読み終わった「女のいない男たち」は、2014年に発表されたものである。
4年前だが、割と最近の作品だと言える。
もう60歳を大きく超えておられる村上さんだが、本作は、なんというか昔のままだった。

都市に暮らす知的な男と女が、
なんだか知らないが辛気臭い会話をし、
酒を飲んだり、ジャズを聴いたりする。
割と簡単にセックスし、
勝手に傷つく。
やれやれ。

村上さんを好きになれない人からしたら、「永久にやってろ」といった内容かもしれない。
「進歩がない」
と言われてしまいかねない。
しかし、これがなぜだか胸を刺す。
「こんな奴はいないよ」
「どこぞの世界にこんな乾いた会話してる奴がいるんだよ」
「似たような話ばっかりじゃないか」
などと言えばそのとおりだろうが、私にはしっくり来た。

老いぼれにはなられないのだろうか。
老いぼれた村上さんも読んでみたくはあるのだが。

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