SSブログ

映画評 「狂猿」 [映画評]

プロレスラー葛西純さんを追ったドキュメンタリー映画。
タイトルの「狂猿(クレイジー・モンキー)」は、葛西さんの愛称。

私はプロレスファンだが、近頃はとんと会場に足を運んでいない。
私が熱心に見ていたのは、新日本プロレスと全日本プロレスが二大メジャー団体だった時代で、
馬場さん、鶴田さん、三沢さんの全日本プロレスのファンだった。
その後どしどし出て来たインディーズ団体はあまりよく知らない。
葛西さんの試合も生で見たことはない。

葛西さんは「デスマッチのカリスマ」と呼ばれる存在。
デスマッチといっても、ラッシャー木村さんの頃のデスマッチとはわけが違う。
何故か蛍光灯が必需品で、
ガラスやら画鋲やらがリング上に散乱するなか、
そこに向けてボディースラムやらパイルドライバーやらが繰り出される。
5メートルダイビングボディープレスとかもあり。
さらに、カミソリやら有刺鉄線やら。
試合が終わった後の姿は、傷だらけ、といった生易しいものではない。

本作は、故障のため長期欠場をやむなくされた葛西さんが、
復帰に向けて準備する姿とそれまでの数々の闘いの軌跡を追ったもの。
戦ったレスラーたちのインタビューも散りばめられている。
本邦初の「デスマッチドキュメンタリー」とのことだが、
えげつないシーンが連続して出てくるので、
このジャンルが確立されて次々に作品が生み出されることはないだろう。

本人から「NGナシ」という確約をもらったらしく、
リング上のズタズタの姿だけではなく、
子どもと公園で遊ぶ姿や、
「モチベーションがなくなった」とこぼす姿なども映される。
ギャップがすごいが、だからといって幻滅することはまるでない。
かえって凄みが増す。

葛西さんの試合は、血まみれである。
映画には、ここでは書けないほどエグイ場面も出てくる。
会場にはかなりの割合で女性ファンが詰めかけている様子が映し出されるのだが、
心臓の強い皆さんであると感心する。

柔道やレスリングのように、
競技として強くなりたいのなら多くの人が共感できる。
ボクシングのように、
勝てば金銭や名声がついてくるのならわかりやすい。
しかし、ハードコアデスマッチをするレスラーのモチベーションはどこにあるのだろう。
うまく説明することはできないのだが、その地獄に魅かれる気持ちも少しわかる。
世界にファンがいるというのもわかる。

映画の最後に葛西さんからの熱いメッセージがあるのだが、
あれが葛西さんの訴えたいことであるとも思わない。
葛西さんは、やりたいからやっているのだろう。
自分を追い込むこと、
自分を傷つけること、
そしてそれを見せること。
そこには不思議な魅力がある。
一度はまってしまうと抜け出せない魔力がある。
とんでもない世界を描くドキュメンタリーだが、
映画にもデスマッチと同じ不思議な魅力があった。

nice!(2)  コメント(0) 
共通テーマ:仕事