SSブログ

基本的な分析結果も口にできなくなるのではと心配になる ~ 日銀黒田総裁の発言への反応で思う ~ [ヨモヤ]

日銀黒田総裁の講演会での発言が波紋を広げ、総裁は発言の撤回、謝罪に追い込まれた。

どのようなものだったかおさらいすると、
・アメリカやヨーロッパと比べると、日本の物価上昇率は低く抑えられている。
・ポイントは賃金の上昇。賃金所得の増加は消費者の値上げ許容度も高める。
・最近は、企業、家計ともにインフレ予想に変化が見られており、企業の価格設定スタンスが積極化している中で、日本の家計の値上げ許容度も高まってきている。
・東京大学の渡辺努教授の調査によれば、『なじみの店でなじみの商品の値段が10%上がったときにどうするか』との質問に対し『値上げを受け容れ、その店でそのまま買う』との回答が、欧米のように半数以上を占めるようになっている。
・結果自体は、相当の幅を持ってみる必要はあるが、ひとつの仮説としては、コロナ禍における行動制限下で蓄積した「強制貯蓄」が、家計の値上げ許容度の改善に繋がっている可能性がある。
・良好なマクロ経済環境を出来るだけ維持し、これを来年度以降のベースアップを含めた賃金の本格上昇にいかに繋げていけるかが、当面のポイントと考える。

こうして見てみると、それほど問題がある発言には思えない。
値上げに対する反応については根拠なくおっしゃっているわけではなく、
学術的な調査結果をもとに、家計全般の話として述べられている。
また、今後好循環につなげるためには賃金の上昇が大切とされていて、
かなり慎重に言葉を選んでおられることがわかる。

いやいや、こんなに問題になるくらいだから本当はもっと安易に値上げを受け入れているようなことを言ったんじゃないの、
と思われる向きもおられるかもしれないが、
講演の内容は、日銀のホームページにアップされているのでご確認いただきたい。
https://www.boj.or.jp/announcements/press/koen_2022/ko220606a.htm/

本件については、国会でも取り上げられ、
「食料品を購入する際、以前と比べ価格が上がったと感じるものがあるか」
と黒田総裁が質問を受ける一幕もあった。
この質問については、国際政治学者の三浦瑠麗氏がご立腹の様子で、
「こういう取り上げ方は一番やってはいけないと思う」
「みなさんの一人ひとりのことではないんですよ、家計というのは。日本全体の家計ということ」
「黒田総裁は専門家なわけです。専門家がマクロの全体の話を見て言っているのに“私が行った今日のスーパーでは、白菜はこのくらいの値段でしたけど”っていうね、エピソードベースで反論しようというのは一番やってはいけない」
「これが日本全体の政治や経済に関する議論の質を落としている。感情論で専門家の意見に反対するのはやめた方がいい」
とテレビ番組でおっしゃったという。

この件については、黒田総裁自身が発言を撤回されているので、
これ以上、とやかく言うべきではないのだろう。
しかし、今回の経緯を見ていると、基本的な分析結果さえ口に出すのがはばかられるようになってしまうのではないかと心配する。
専門的な分析結果も「いや、自分はそうではない」という理屈で封殺されてしまうのではないかと危惧する。
それがあるべき方向性とはとても思えない。

nice!(3)  コメント(0) 
共通テーマ:仕事