SSブログ

死刑制度の是非について議論はあっても 死刑の執行は法の手続きに従って行うのが法治国家のはず [ヨモヤ]

オウム真理教元代表の松本智津夫死刑囚ら、教団元幹部7人の死刑が執行された。
松本死刑囚に対する死刑執行ということだけで驚いたが、7人同時の執行ということで衝撃が増した。
法務省が執行を公表するようになった98年以降では、4人の同時執行が最多だったとのことであり、過去最大の規模であったようだ。

この死刑執行には、いろいろな声が上がっている。
「当然」
「むしろ遅すぎた」
という声がある一方、
例によって
「安倍政権による人気取り」という意見もある(これを言う人は、何かにつけて政権批判をする印象があるが)。
また、死刑制度を持っていない国のメディアによる懐疑的な論調も紹介されている。
フリーアナウンサーの宮根誠司さんは
「色んなところで災害が起きている時に、何でずらさなかったのかな」
と疑問を呈したが、ネット上では、「災害と死刑とは関係ない」と叩かれているようだ。

さて、死刑については、刑事訴訟法で以下のように決められている。

第475条 死刑の執行は、法務大臣の命令による。
2 前項の命令は、判決確定の日から6箇月以内にこれをしなければならない。

つまり、本来なら死刑の執行は死刑判決確定後、一定の期間内になされるべきものなのである。
松本死刑囚は、2006年に死刑判決が確定していて、6箇月どころか10年以上の歳月が経過したことになる。
しかし、この間、法務大臣は何らかの事情で命令してこなかった。
法を司る立場としては、いかがであろう。

死刑制度については、賛否両論がある。
いろいろな考え方があり、なかなか結論が見いだせない。
死刑を、廃止している国も少なくない。
実施している国も少なくない。
だから、制度についての議論は大いにするべきだと思う。
しかし、法律に位置付けられている現状にあっては、法に従って執行していくのが法治国家の姿として当然だろう。
死刑が執行されるたびに、
「ヨーロッパでは死刑制度を廃止している国が多い」
「なぜこの時期に」
「政権の人気浮揚のため」
などと解説される方がおられるのが、どうにも落ち着かない。
法律に決まっている手続きを行うことが問題視されるのは、やはりおかしいと思うのである。

nice!(2)  コメント(0) 
共通テーマ:仕事

人を誘って観たくなる本当に稀有な映画  ~ 「カメラを止めるな!」二回目の鑑賞は7人編成のツアー ~ [映画評]

映画を楽しく観る最大のコツは、
「期待しないこと」
である。
映画ファンが言うべきことではないかも知れないが、大抵の映画はつまらない。
大抵の映画は、作り手のプライドを疑わせる。

そして、映画は観る人によって評価が分かれる。
「最高によかった」
と感じる人がいる映画について、
「ひどい駄作」
と思う人もいる。

だから、面白いと思った映画について、人を誘って観に行こうという気には、通常ならない。
だって、面白い面白いとハードルを上げて観てもらったら、失望されたときの落差が激しいから。
だって、私が面白いと思っても、みんなが面白いと思うとは限らないから。

それが、「カメラを止めるな!」については違った。
人を誘って、みんなで観たくなった。
多くの人に知ってもらいたいと思った。
私の信じる人たちに、笑って、感じてもらいたいと思った。
だから、ツアーを組んで映画館に潜入した。
こんなことを思わせる映画は初めてだ。
これからも、二度とないかもしれない。

新宿のK's cinemaでは、平日も併せ、45回連続満員だという。
信じられない快挙である。
私たちが行った池袋のロサも満員だった。
チケットは3時間以上前に手に入れた。
はじめてのお客さんも、リピーターのお客さんも、揺れるほど笑い(映画の途中で大きめの地震があったそうだ。私は全く気付かなかったが)、ぐっと熱くなった。
これはもう、社会現象一歩手前である。
まだまだはじけるだろう。

二回目の私は、一緒に行った人たちの反応は気になりながらも、何がどうなるかわからないということはないから余裕はある。
序盤から、見逃さぬよう、聞き逃さぬよう、画面に集中集中。
ああなるとわかっていて見ると、最初から笑える。
後半は、館内もバカ受け状態だったので、遠慮なく声を出して笑った。

評判が評判を呼んでいるが、コメディのくくりの映画であり、ややこしく考えずに楽しめばいい。
それでいい。
私は、ものを作る苦しみ、誇り、喜びを改めて感じたが、そこらへんは人それぞれだろう。
別に、感動しなければいい映画ではないということはない。
もっと拡がって、もっと感染者が増えてくれればいい、と強く願う。
そして、それはもう、私などが願わなくても、きっと叶うことだろう。

熱く、あたたかい、幸せな夜だった。
「カメラを止めるな!」は、ロサに似合った。

nice!(4)  コメント(0) 
共通テーマ:仕事

ここ数年の相場環境で損失を抱えていては困りもの ~投信選びは慎重に~ [経済を眺める楽しみ]

7月4日付の日本経済新聞に、
「投信で損失、個人の半数 金融庁調査」
との見出しの記事が掲載された。
なんでも、金融庁が投信を販売する銀行に実施した調査において、投資信託を保有する個人投資家の半数近くが損失を抱えているということが判明したのだそうだ。

投信も投資の一種だから、いくらプロに運用を任せていると言っても、百発百中で運用益が出るとは限らない。
ほとんどの人が儲かっていないだろう競馬などの公営ギャンブルをやっている人からすれば、
「半数が損失、ということは残り半数はトントンかプラス。そんなうまい話があるのか」
と驚くかもしれない。
しかし、ここ数年は非常に相場環境が良かった時期である。
なにしろ、2012年には10,000円を割っていた日経平均が、今や20,000円を超えているのだから。
黙って日経平均と連動するファンドを買っていれば資金が倍になっていた勘定であり、この期間でマイナスを計上するのはアツい。

記事の中では、金融庁幹部が
「金融機関のトップは手数料収入の多寡は気にしても、顧客がもうけられているかは見向きもしてこなかった」
と批判している、とされていた。
そんなことがあるのだろうか、と思う反面、商品として投信を売っている立場の金融機関としては、儲けなければ話にならないということもあるかもしれない。
本来なら、投信成績を上げることで、結果として顧客が増える形でありたいところだが、利益が上がるかどうかはなんとも見通せないから、確実な手数料で稼ごうという方向に気が向かっていたのだろうか。

私は、運用を人に任せるのがどうにもしっくり来ないのでこれまで投信を買ったことはないが、長期保有を前提とするなら有力な選択肢の一つであると思う。
金融機関に顧客本位の姿勢に生まれ変わってもらいたいところではあるが、それを待っているだけというのも、他人任せ過ぎる。
ここは、買う側がしっかり選ぶしかない。
そして、しっかり選ぶためには、それなりの理論武装が必要である。
人に任せるからこそ、悔いのないように。

nice!(3)  コメント(0) 
共通テーマ:仕事

ワールドカップ 客観的に見てそこまでの健闘だったかどうか・・・ ~ いつか16強を通過点と見られる日が来るのか ~ [ヨモヤ]

手のひら返し、という言葉が流行語になっているそうだ。
もちろんサッカーの日本代表への日本国民の反応についてが語源である。
戦前は、
「最弱」
「全く盛り上がっていない」
などと言われていたが、初戦から50%近い視聴率をたたき出し、
決勝トーナメント進出を決めたイレブンは英雄扱いである。

確かに、2度追いついたセネガル戦や、あと一歩まで追い詰めたベルギー戦は見事だったが、トータルで結果だけを見ると、そこまでの健闘と言えるのかどうか。
天邪鬼で言うのではなく、冷静に振り返ってみよう。

前回のブラジル大会について、
「1勝もできず惨敗」
と言われ、今回はそれと比べると素晴らしかったとされる。
前回は、0勝2敗1分け
今回は、1勝2敗1分け。
今回も勝ったのは1試合だけである。

さらにその1勝も内容を吟味すると、開始3分という史上2番目に早い退場者が出たコロンビアからのもの。
1-0とリードした状況から、90分間まるまる一人多いハンディキャップマッチを戦っての勝利だから、客観的に見て、価値は微妙と言わざるを得ない。

そして、1敗はすでに2敗していたポーランド戦。
勝ち負けは仕方がないが、自力での決勝トーナメント進出を放棄し、延々と時間稼ぎを続けた試合ぶりは、日本スポーツ史上に残る汚点と言われても仕方ない戦い方だった。

このように冷静に結果を振り返れば、失礼ながらそれほどではない戦いぶりが、なぜここまで評価されているのか?
最も大きな理由は、「期待されていなかったから」ということだろう。
グループリーグのメンバーから見て(どう見ても、日本のグループは恵まれていた)、予選突破は当たり前、と思われていたら、今回のような称賛はなかっただろう。
どうにかこうにか予選を突破したことによって、
「感動をありがとう」
と言われることが、果たしていいことなのかどうか。

選手はだれ一人今回の結果に満足してないようなので、そこは心強い。
あとは、渋谷での傍若無人な暴れぶりを含め、見る方がしっかりしたいものである。
こちらは期待薄、と言わざるを得ないが。

nice!(3)  コメント(0) 
共通テーマ:仕事

6月の読書記録 [読書記録]

6月に読んだ本は以下のとおり。

6月1日 「すべての人が輝くみんなのスポーツを」
6月2日 「池上彰の教養のススメ」
6月3日 「PEP TALK」 浦上 大輔
6月4日 「さよならのあとで」 ヘンリー・スコット・ホランド
6月5日 「壁なんて破れる」 大日方 邦子
6月6日 「東京郊外の生存競争が始まった!」 三浦 展
6月7日 「本屋図鑑」
6月8日 「飛ぶ夢を見た。」
6月9日 「赤頭巾ちゃん気をつけて」 庄司 薫
6月10日 「浦田理恵 見えないチカラとキセキ」 竹内 由美
6月11日 「演技と演出のレッスン」 鴻上 尚史
6月12日 「官僚たちのアベノミクス」 軽部 謙介
6月13日 「最高のチームに変わる仕組みの作り方」 石田 淳
6月14日 「色街遺産を行く」 八木澤 高明
6月15日 「だから恋は少しせつない」 吉元 由美
6月16日 「義足ランナー」 佐藤 次郎
6月17日 「学校では教えてくれない戦国史の授業」 井沢 元彦
6月18日 「恋愛書簡術」 中条 省平
6月19日 「1分間問題解決」 K.ブランチャード
6月20日 「新・独学術」 待留 啓介
6月21日 「フリーランスのための一生仕事に困らない本」 井ノ上 陽一
6月22日 「完全失踪で人生リセット!」
6月23日 「人権ってなに?」 阿久津 真理子、金子 匡良
6月24日 「お金2.0」 佐藤 航陽
6月25日 「パラリンピック・ジャンプ」
6月26日 「ずば抜けた結果の投資のプロだけが気づいていること」
6月27日 「戦略参謀」 稲田 将人
6月28日 「トランプ時代と分断される世界」 NHK取材班
6月29日 「観光立国をめざして」 田川 博己
6月30日 「LGBTを読み解く」 森山 至貴

ふとしたきっかけで、何十年かぶりで読んだ庄司薫さんの「赤頭巾ちゃん気をつけて」。
面白かった記憶があったが、期待を上回る面白さ。またいつか読み返そう。「薫クン四部作」の他の作品も読み返さなきゃかなあ。
 
待留啓介さんの「新・独学術」は、勉強法というより生き方・考え方の本。
生産性高く働くためのヒントが詰まっている。

佐藤航陽さんの「お金2.0」は、新しいお金のあり方を示しているとして大ヒットしたが、残念ながら私にはピンと来なかった。

nice!(3)  コメント(0) 
共通テーマ:仕事

映画評 「パンク侍、斬られて候」 [映画評]

映画「パンク侍、斬られて候」が賛否両論を起こしているようだ。
町田康さんの江戸時代が舞台の小説を、
宮藤官九郎さんの脚本で映画化、
というから、ぶっ飛んだ内容になることは予想がつくところであり、
そうなると、「合う・合わない」が出てくるのもやむを得ない。

私は楽しめた。
ハチャメチャな話なのだが、しょっぱなからハチャメチャであることを宣言しているので、そのつもりで映画に入れる。
結果的にハチャメチャになってしまったのではなく、そのつもりで作られているので、こちらもそのつもりで見ればいい。
ナレーションが被るスタイルや、会話のテンポなど、独特の音楽が流れている感じである。

主演の綾野剛さんはもちろん、
豊川悦司さん、國村隼さん、東出昌大さんらの大袈裟な芝居っぷりがおかしい。
さらに、染谷将太さん、浅野忠信さんの突き抜け方は半端ない。
それぞれのファンの方はどう思うのかわからないが、もともとそういう役者さんでもあると思う。
彼らの演技を楽しむだけで、一見の価値はあると思う。

メガホンを取ったのは石井岳龍監督。
石井岳龍監督と言われてピンと来ない人も多いだろうが(私もその一人)、
「狂い咲きサンダーロード」や「逆噴射家族」で知られる石井聰亙さんが改名されているものである。
これだけのスケールで、
これだけの馬鹿馬鹿しい作品を作り上げられるのは、
そんじょそこらの監督ではできないと思う。
「ひどい」「わけわからん」
などと書かれているレビューも多いが、そこらにあふれている凡庸な映画よりは、ずっとよかった。

しかし、思う存分満喫できたかといえば、そうではない。
まず、ちと長い。
作品の世界観に漬かったとしても、だんだんダレてくる。
131分の作品なのだが100分だったら、もっとよかった。
また、ラストに向けての唐突感が興を醒ます。
綾野さんが炸裂するのもお猿さんが天に昇るのも(何言ってるのかわからないと思うが)、
それまでのフリが活きていないから、「へ?」という感じである。
北川景子さんによるオチの部分も、急に当たり前の展開で拍子抜けする。

「パンク侍、斬られて候」は、観る人を選ぶ映画。
ノリノリで楽しめる人もいれば、嫌悪感を覚える人もいる。
ハードルは低くないが、観客に媚びる映画よりは気持ちいい。

nice!(4)  コメント(0) 
共通テーマ:仕事

役員報酬がある程度上がるのは納得も 限度を超えないことを願う [経済を眺める楽しみ]

上場企業の役員報酬で、いわゆる「1億円プレーヤー」が増えているらしい。
2018年3月期に1億円以上の報酬を得た役員の人数は前の期比15%増の538人となり、初めて500人を超えたのだそうだ。
さて、これを多いと見るか少ないと見るか。

一般の従業員と社長の給料差があまり大きくないのが日本企業の特徴だったから、その観点からすれば、従業員の賃金が伸び悩んでいる中での役員報酬の増額には、違和感があるかもしれない。
一方、選ばれた企業のみが名を連ねているのが上場企業である以上、その役員が地位にふさわしい金額をもらうのは当然、という見方もあるだろう。
ちなみに、12球団しかない日本のプロ野球において、1億円プレーヤーは約120人いる。
これに対して上場企業数は3,500を超えている。
そこからすれば、538人は、それほど多い数字ではないと言えるかもしれない。

トップは、ソニーの平井一夫取締役会長。
金額は約27億円で、2位以下に大差をつけた。
さすがに27億円は高いだろうと思うが、ワールドカップで散々叩かれたイニエスタが32億円もらうと考えると、なんとも言えない気もする。
もちろん、業績の裏付けもある。

上位陣の中で目立つのはスルガ銀行。
岡野光喜会長が1億9700万円、故岡野喜之助元副社長が5億6500万円、米山社長が1億6800万円。
シェアハウス融資の問題で社会的な批判を受けている最中に、トップは高額の報酬をもらっているという図式は、被害者の感情を逆なでするだろう。
高額をもらうとそれだけ社会的な責任も重くなるし、ふさわしい行動も求められる。

役員報酬の高額化、職員間の賃金格差の拡大、といった流れは、当分止まらないだろう。
しかし、極端なところに行きつくまでに止まってほしい。
アメリカ式の企業内格差は、日本にはなじまないと考えるからである。
とっくに幻想なのかもしれないが、家族的企業経営のよさは受け継いでいきたい。

nice!(3)  コメント(0) 
共通テーマ:仕事

パ・リーグで5球団がAクラスの大混戦 [ヨモヤ]

近年のパ・リーグのペナントレースは、ソフトバンクがぶっちぎるのがお約束だった。
しかし、今年は様変わり。
稀に見る大混戦になっている。

7月1日終了時点の順位表は以下のようであり、3位以上のいわゆるAクラスに5チームがひしめき合っている。
ゲーム差で言えば、首位の西武から4ゲーム差内に5チームが収まる形。
残念ながら、楽天は蚊帳の外である。

1位 西武 41勝29敗1分
2位 日本ハム 41勝31敗0分  1.0
3位 ソフトバンク 37勝34敗0分 3.0
3位 オリックス 37勝34敗3分  0.0
3位 ロッテ 37勝34敗0分    0.0
6位 楽天 27勝45敗1分    10.0

セは2位のヤクルトでさえ借金を抱えるという状況だが、パは5チームが貯金を持っている。
つまり、低レベルの混戦でもないと言えようか。

この混戦の最も大きな原因は、ソフトバンクの不調である。
とにかく、怪我人が続出した。
なにより痛いのは去年のMVP、サファテの不在で、今シーズンは絶望的らしい。
盤石に見えた投手陣だが、サファテに加えて、
スアレス、五十嵐、和田、岩嵜、東浜、
と、これだけ離脱してしまってはさすがに厳しい。
野手陣も、内川は帰ってきたが、今宮が欠場している。
この状況で、貯金3の首位まで4ゲームならまずまずだが、例年と比べて脚をためている感じはない。
今年は抜け出して、引き離していくのは難しいのではないだろうか。

一方、去年下位に甘んじた日本ハム、オリックス、ロッテの各球団が、予想以上によく戦っている。
特にロッテは、両リーグ最小のホームラン数にもかかわらず、コツコツつないで勝ちを拾っている。
正直、ここまでの頑張りは開幕前は予想できなかった。

ソフトバンクが決め手に欠ける以上、打線の破壊力12球団1の西武にチャンスが広がる。
終盤までもつれるようなら、勝ち慣れている日本ハムの存在が脅威となる。
楽天はさすがにここからの逆転は難しいだろうが、打線が整ってきており、台風の目的な存在になりつつある。

原因がなんであれ、混戦は楽しい。
このまま9月までもつれることを期待している。
nice!(4)  コメント(0) 
共通テーマ:仕事

企業の「内部留保」に関するおさらい ~共産党・小池書記局長の講演から~ [公会計]

朝日新聞DIGITALに
「共産・小池氏『トヨタの内部留保、使い切るのに5千年』」
との見出しが掲載されていた
共産党はかねてより企業の内部留保を問題視されているが、「使い切るのに5千年」とはどういうことか興味を持った。

前提は、いつもおっしゃっていること。
つまり、
「史上空前の利益を上げている大企業への減税をやめれば、社会保障の財源ができる。大企業には十分体力はある。」
ということである。
この点については、賛否両論はあるにしても、一理ある提案だと思う。
しかし、そのことと内部留保を吐き出させることには、実は相当な距離がある。
この仕組みについては後で書く。

講演では、次のように続けられたというが、この5千年のくだりには、「?」が一瞬にして点滅しまくる。
「トヨタ自動車の3月期決算を見てみたら、子会社も含めて連結内部留保は約20兆円。毎日1千万円ずつ使っていくとする。想像できませんが、使い切るのに5480年かかる。縄文時代ぐらいから使い始めて、ようやく最近使い終わる。」

連結内部留保が約20兆円というのは、利益剰余金約19兆円のことだろう。
「剰余金」というといかにもお金として持っているようだが、これは決算というある種ヴァーチャルな世界で発生したもの。
トヨタが持っている手持ちの現金としては、流動資産中の「現金及び現金同等物」と「定期預金」と「有価証券」の合計と考えるのが一般的だろう。
これが、約5.6兆円である。
それでも巨額だが、20兆円とは随分趣が変わる。
小池書記局長はもちろん理解されたうえでおっしゃっているのだと思うが、内部留保(利益剰余金)=手持ち資金ではないことには注意したい。

また、「毎日1千万使ったら」という前提がよくわからない。
確かに1千万円なら5千年だが、1億なら5百年、10億なら50年である。
ちなみに、トヨタの2008年3月期の営業利益は2.2兆円、2009年3月期の営業利益は0.5兆円の赤字と、単年で2.7兆円の利益を減らしたことがあった。
この時のようなことが続けば、内部留保が20兆円としても7年、
手持ち資金を5.6兆円とすると、わずか2年で底をつく計算になる。
念のため。

さらに、次のフレーズになると、ツッコミどころが多過ぎて、もう何がなんだかわからない。
「このお金を生かしたら、何ができるか。内部留保を賃上げに回す。正社員の雇用を増やす。そうすれば、トヨタの車はもっと売れるようになる。トヨタ自動車の未来を考えて、私は言っている。法人税の減税をやめて社会保障の財源に回せば、将来不安が取り除かれる。そういう人がトヨタの車を買うかもしれない。こういうのを、経済の好循環と言う。」

「内部留保を賃上げに回す」との提案だが、先も書いたように内部留保(利益剰余金)は、決算上の数字なのでこれを賃上げに回すことはできない。
手持ちの資金を賃上げに回し、それによって経費が増え、これによりトヨタが赤字になった場合、はじめて利益剰余金が減ることになる。
当然だが、赤字にならないと内部留保は減らない。
妙な話だが、小池書記局長の主張どおり、賃上げなどによりトヨタの車が売れるようになると、利益が増えて、また利益剰余金が増えることになる。
ほかにも、あそこもここもツッコミたいところだが、内部留保について考える場なので差し控える。

小池書記局長としても、会計的な正確さより、わかりやすさを念頭に講演されたのだと思う。
しかし、結果的に、内部留保に対する誤解を助長してしまっていないか危惧する。
企業に対する税を上げるべきかどうかは、しっかり議論すべきことだと思うが、その前提の理解が間違っていてはきちんとした議論にはならない。
事実を踏まえない情緒的な批判は、無意味な対立をあおるだけになってしまいかねないからである。

nice!(4)  コメント(0) 
共通テーマ:仕事