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企業の「内部留保」に関するおさらい ~共産党・小池書記局長の講演から~ [公会計]

朝日新聞DIGITALに
「共産・小池氏『トヨタの内部留保、使い切るのに5千年』」
との見出しが掲載されていた
共産党はかねてより企業の内部留保を問題視されているが、「使い切るのに5千年」とはどういうことか興味を持った。

前提は、いつもおっしゃっていること。
つまり、
「史上空前の利益を上げている大企業への減税をやめれば、社会保障の財源ができる。大企業には十分体力はある。」
ということである。
この点については、賛否両論はあるにしても、一理ある提案だと思う。
しかし、そのことと内部留保を吐き出させることには、実は相当な距離がある。
この仕組みについては後で書く。

講演では、次のように続けられたというが、この5千年のくだりには、「?」が一瞬にして点滅しまくる。
「トヨタ自動車の3月期決算を見てみたら、子会社も含めて連結内部留保は約20兆円。毎日1千万円ずつ使っていくとする。想像できませんが、使い切るのに5480年かかる。縄文時代ぐらいから使い始めて、ようやく最近使い終わる。」

連結内部留保が約20兆円というのは、利益剰余金約19兆円のことだろう。
「剰余金」というといかにもお金として持っているようだが、これは決算というある種ヴァーチャルな世界で発生したもの。
トヨタが持っている手持ちの現金としては、流動資産中の「現金及び現金同等物」と「定期預金」と「有価証券」の合計と考えるのが一般的だろう。
これが、約5.6兆円である。
それでも巨額だが、20兆円とは随分趣が変わる。
小池書記局長はもちろん理解されたうえでおっしゃっているのだと思うが、内部留保(利益剰余金)=手持ち資金ではないことには注意したい。

また、「毎日1千万使ったら」という前提がよくわからない。
確かに1千万円なら5千年だが、1億なら5百年、10億なら50年である。
ちなみに、トヨタの2008年3月期の営業利益は2.2兆円、2009年3月期の営業利益は0.5兆円の赤字と、単年で2.7兆円の利益を減らしたことがあった。
この時のようなことが続けば、内部留保が20兆円としても7年、
手持ち資金を5.6兆円とすると、わずか2年で底をつく計算になる。
念のため。

さらに、次のフレーズになると、ツッコミどころが多過ぎて、もう何がなんだかわからない。
「このお金を生かしたら、何ができるか。内部留保を賃上げに回す。正社員の雇用を増やす。そうすれば、トヨタの車はもっと売れるようになる。トヨタ自動車の未来を考えて、私は言っている。法人税の減税をやめて社会保障の財源に回せば、将来不安が取り除かれる。そういう人がトヨタの車を買うかもしれない。こういうのを、経済の好循環と言う。」

「内部留保を賃上げに回す」との提案だが、先も書いたように内部留保(利益剰余金)は、決算上の数字なのでこれを賃上げに回すことはできない。
手持ちの資金を賃上げに回し、それによって経費が増え、これによりトヨタが赤字になった場合、はじめて利益剰余金が減ることになる。
当然だが、赤字にならないと内部留保は減らない。
妙な話だが、小池書記局長の主張どおり、賃上げなどによりトヨタの車が売れるようになると、利益が増えて、また利益剰余金が増えることになる。
ほかにも、あそこもここもツッコミたいところだが、内部留保について考える場なので差し控える。

小池書記局長としても、会計的な正確さより、わかりやすさを念頭に講演されたのだと思う。
しかし、結果的に、内部留保に対する誤解を助長してしまっていないか危惧する。
企業に対する税を上げるべきかどうかは、しっかり議論すべきことだと思うが、その前提の理解が間違っていてはきちんとした議論にはならない。
事実を踏まえない情緒的な批判は、無意味な対立をあおるだけになってしまいかねないからである。

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