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書評 「十六歳のモーツァルト」 [読書記録]

オリンピックで若い力が躍動している。
彼らの姿は実にまぶしい。
一心不乱に命を燃やしている姿は、見ているだけで動かされるものがある。

しかし、誰もがオリンピック選手のように輝けるわけではない。
なかには、あっという間に人生を終わらせてしまう若者もいる。

この本を読むまで、加藤旭くんの存在を知らなかった。
図書館に新規入庫として並べられていて、ふと手に取った。

世の中に稀に「天才」と呼ばれる子が生まれるが、加藤くんはまさにそんな選ばれた子どもだった。
誰に教わるわけでもなく作曲をはじめ、
中学進学では自ら進んで受験を選び、開成、灘、栄光学園に合格した。
誰にでも愛される子だったという。

加藤くんは、成長するにしたがって体を動かすことに興味を覚え、
音楽からは距離を置くようになる。
しかし、中学時代から重い病気を発症し、ついには失明するに至り、
改めて音楽に向き合うようになる。

加藤くんは十六歳で亡くなってしまう。
タイトルはそこから来ている。
もし、もっと生きていたらどんな人生だったのだろう、
と思うと本当に残念だが、
彼は彼の人生を生き切ったようにも思える。

著者の小倉孝保さんは、ジャーナリストであり、ノンフィクション作家。
本作では、その綿密な取材ぶりに感嘆させられる。
才能のある若者が若くして死んでしまうという、悲し過ぎる話なのだが、
丁寧に日々を追いかけているので、単に悲しいというより、
しみじみ入ってくる。

こうした本を読んで、
しっかり生きていかなければ、
という気になるのはべたべたにベタであり、
あまりにもありふれた感想だが、
加藤くんや加藤くんのご両親の無念を思うと、自然に湧き上がってくる。
お母さんの実家が私の出身地である滋賀県彦根市だったことという縁にも引き付けられた。
(ちなみに、東京オリンピック400m&200m個人メドレー金メダリストの大橋悠依さんも彦根市出身である。)

人は長く生きればいい、というものではないと改めて思う。
しかし、彼には長く生きてほしかった、とも素直に思う。
生きることとは、
才能とは、
など、今さらながら考えさせられた。

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