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映画評 「カランコエの花」 [映画評]

この映画を知ったのは、日本経済新聞のコラム「春秋」に取り上げられていたから。
同コラムは、本作がロングラン上映を続けていることを「カメラを止めるな!」の現象と併せて紹介し、ネット時代の売り方について考察していた。
私は、LGBTをテーマにしていて、舞台が高校で、口コミで広がっている、
ということで強く興味をそそられた。
上映館が少ないうえに、上映スケジュールが朝とか夜だったり、上映時間も短い(39分)など難しい条件もありつつ、是非見てみたいと思った。

こうした小品の場合、大変失礼ながら、登場人物のルックスに問題がある場合が少なくない。
役者さんには失礼な話だが、商業作品の場合、その要素は軽視できない。
その点、本作に出てくる俳優さんたちは、しっかり輝いている。
交わされる会話も実に自然体で、映画の世界にすっと引き込まれる。
どこにでもありそうな話を、誇張なく丁寧に描いていて、
「自分ならどうだろう」
「なら、どうしたらいいのだろう」
などと考えさせられる。

ふむ。

しかし、である。
映画は消化不良のまま終了する。
余韻を残してというより、いろいろ足りないままに終わる。
演出にも首をかしげたくなる部分がある。
例えば、教師のある癖が波紋を広げるきっかけになるのだが、その癖の出し方があまりにも不自然で興ざめであった。
癖を使うのはいいにしても、もっとほかのやり方があったはずだ。
そこを突き詰めただろうか。
いろいろとアイデアを出し合い、何度も見返しただろうか。

そういう甘さがほかにも見られた。
これが学生映画であったり、道徳の時間に教材として使われる類の映画であったりすればそれもありなのかもしれないが、お金をいただいて見せる映画としてはどうだろう。
それにふさわしい満足を与える作品になっているだろうか。
それにふさわしい物語の回収になっているだろうか。
この題材で、この役者さんたちを得たのなら、もっと遠くに行けたのではないかと思う。
上映時間の長さとは関係がない。
この時間でも、もっと濃くできた。
そちらの方面に問題意識の高い人にはいいかも知れない。
しかし、純粋に面白い映画、いい映画、感動できる映画を求めている人に本作を勧めることは、少なくとも私にはできない。

主演の今田美桜さんは、私は知らなかったが、今注目度が高まっている女優さんらしい。
本作でも、しっかり真ん中に立って映画を引っ張っている。
なにやらここで週刊新潮にスキャンダルが掲載されているらしいが、映画のプロモーションにはなるだろう。
同級生を演じる手島美優さんも、しっかり女子高生していて、スクリーンに目を引き付ける。
物語の鍵を握る男子高校生役を笠松将くんが好演。

日経だけではなく他のメディアでも、本作が第二の「カメラを止めるな!」になるかも知れないとの声があるらしい。
映画が多くの人に観られることはとても嬉しいし、こうした小品が口コミで広がっていくことは大いに歓迎したいが、素晴らしいエンタテインメント作品に仕上がっていた「カメ止め」と本作は、同じ土俵に乗せるものではないと思う。
本作に関しては、作り手の執念がもっと欲しかった。
まだ行けたし、行くべきだったと思う。

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