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映画評 「教誨師」 [映画評]

今年の2月、日本を代表するバイ・プレイヤーであり、多彩な仕事ぶりから、
「300の顔を持つ男」
との異名を持った大杉漣さんが急逝された。
本作は、大杉漣さんの最後の主演映画であり、唯一のプロデュース作品でもある。
密室劇という設定も好きだし、
ロケ地にも関心があり、
よき映画であることを願った。
思い入れのある作品が困ったものだと悲しくなるから。

さて、タイトルとなっている「教誨師」とは、
『監獄内における受刑者の徳性涵養 のため講説する者』
『刑務所で受刑者などに対して徳性教育をし、改心するように導く人』
とされている。
教誨という言葉の音が教会と同じなため、なんとなくキリスト教に限定されたイメージがあるかもしれないが(この映画で大杉さんが演じられるのもキリスト教)、実際にはいろいろな宗教者が担当されている。

映画では、大杉さん演じる教誨師が、死刑囚6人と対話する。
密室の中、一対一でのやり取りが繰り返される。
懸命に道を説く大杉さんだが、死刑囚たちはたやすくは心を開かず、大杉さんの思いは届かない。
あからさまに論争を仕掛けてくる若い死刑囚がいるが、思いをぶつけてくるだけ、まだいい。
敬意を表しているフリをして、なんとか取り込もうとしているものや、
全く違う方向を見ているものなどさまざまである。
しかし、それがいい。
道を説かれて、素直に従うものなど、実際にはごく少数であろう。
しかもこの映画の登場人物は、犯罪者であり、かつ死刑の執行を待っている面々である。
すんなり心に沁み込むはずがない。
そこをそのまま描いているところが、観ていてスカッとはしないものの、胸に届くものがある。

ただ、いくつか残念な点もある。
教誨師の過去の描写はなにやら薄いもので、これはない方がよかった。
教誨師の人間臭さが魅力であり、説得力も増させていたが、少し無力であり過ぎる感もあった。

出演は大杉さんのほか、
玉置玲央さん、烏丸せつこさん、五頭岳夫さん、小川登さん、古舘寛治さん、光石研さんら。
一癖も二癖もある死刑囚を、個性派俳優陣がノリノリで演じられている感じがして楽しかった。
烏丸せつこさんには、NHK-FM「サウンドストリート」を聴かせていただいていた青春の思い出もある。

映画「教誨師」は、観る人によって大きく印象が変わる映画だと思う。
どの立場でどの視点で誰に肩入れして観るかによって、全く違う見え方がするはずだ。
映画人大杉漣さんは、この映画で何を伝えたかったのか。
それを想像するのも本作の楽しみ方の一つだろう。

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