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映画評 「止められるか、俺たちを」 [映画評]

本作は、2012年10月に急逝された映画監督・若松孝二さんと、彼の周りに集まった若者たちの日々を描いた作品である。
「止められるか、俺たちを」とのタイトルだが、登場人物たちは猛スピードで疾走しているというより、迷い、戸惑い、焦り、困っている。
「止められるか」というより、「止まれるのか」という感じだろうか。

若松孝二さんは、ピンク映画を中心に撮りながら、若者の大きな支持を集めた伝説的映画監督。
といっても私は彼の作品をよく知らない。
だから、思い入れもない。
しかし、受け継がれた映画を作る熱情のようなものが表現されている作品ではないかと踏んだ。

若松監督の伝記的な映画かと思いきやさにあらず、若松監督のもとに集まった若者たちの青春群像劇となっている。
一座の中心にいる感はあるものの、若松さんのカリスマ性はあまり描かれない。
若松監督を演じた井浦新さんも、グイグイ出張ってくる感じではなかった。

本作の主役は、門脇麦さんが演じた女性助監督。
男でもキツイ仕事である若松監督によるピンク映画の助監督を志願して務め、いつか自分の映画を撮りたいと思っている。
しかし、どんな映画を撮りたいのかは、まだわかっていない。
燃える気持ちはあるが、宙ぶらりんな存在。
自分が信じられないでいる。

映画は、ストーリーがあるような無いような感じで進む。
若松プロによるハチャメチャな映画製作の様子が描かれ、新しい人間が入ってきたり、先輩が抜けたりする。
ずっと同じことの繰り返しのようだが、それがなぜか私には心地よく、延々と観ていられる感じだった。

主人公の女性は、実在の人物をモデルにしているらしい。
彼女の成長がつづられていくのかと思っていると、終盤に大きな破綻がある。
それはあまりにも唐突であり、うまく解釈できない。
この展開を、不親切として不快に思われる方も少なくないと思うが、私は受け入れることができた。
自分のことは自分にしかわからない。
なんだって起こり得る。

監督は、白石和彌さん。
「彼女がその名を知らない鳥たち」
「孤狼の血」
と連続で問題作を公開され、非常に注目されている監督の一人であると思う。
白石監督は、若松孝二さんに師事されていた時期があったらしく、この作品への思い入れもひとしおだっただろう。
しかし、劇中では若松監督に対する激情は、ぐっと抑えられている。

「止められるか、俺たちを」は、映画ファンなら観て損のない映画。
ピンク映画の監督だったので、そういうシーンはそれなりに出てくるが、裸が絶対にダメ、という人以外なら受け入れてもらえるのではないだろうか。
エロいというより、コミカルに描かれている。
なんでも受け入れる覚悟で、作り手の熱を受け止めよう。

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