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前日銀総裁の講演で思う  ~ 「金融政策に答えは無い」と考える方がトップにおられた皮肉 ~ [経済を眺める楽しみ]

前日銀総裁の白川方明さんが、日本記者クラブで記者会見をされた。
退任後、これまで発言を控えられていた白川さんだが、著書の刊行に合わせて口を開かれた。
このタイミングで発言されると、どうしても著書のコマーシャルのように思われてしまうことは避けられないが、出版社からの要請であったのだろうか?
それとも、ご本人の我慢も限界だったのだろうか?

白川さんは、日本銀行の総裁を務められた方だが、もともとは総裁になられるはずの方ではなかった。
白川さんが副総裁だった時期がねじれ国会だった時期に当たり、武藤敏郎氏、田波耕治氏のお二人の人事案が相次いで否決されたため、繰り上がりのような形で総裁になられたのである。
在任期間は、2008年の3月から2013年の3月までであり、この期間は日本株の低迷期と見事に重なる。
当然ながら、株価の低迷を日銀総裁だけの責任にするのは間違いだが、事実としてそうである。
安倍政権が誕生し、日銀総裁に黒田東彦氏が就任された後の株価の上昇は周知のとおりであり、こちらはもちろん偶然ではない。

私は、日銀総裁の役割は重い、と信じている。
なんでもできるとは思わないものの、かなりのことができるはずだと思う。
そして、中央銀行の役割の重大さは、世界中どこでも同じだろう。
しかし、白川さんの考え方は少し違うようだ。

今回の記者会見で白川さんが述べられたこととして報道されている言葉を並べてみると、こんな具合である。
「日本経済の根本的問題は急速な高齢化と人口減少であり、金融政策に答えは無い」
「金融緩和は、本質的には明日の需要を今日に持ってくる政策であり、効果は長続きしない」
「日本経済が直面している課題が金融緩和で解決すると人々が思ったとすれば、それが最大のコストだ」

こうして見ると、どうやら白川さんは金融政策には大した意味はない、と考えておられるようだ。
そうなのかもしれない。
白川さんが正しく、世界の常識が間違っているのかもしれない。
それはわからないが、一つ言えることは、白川さんは日銀総裁には向いていなかったということである。
エコノミストや学者としての優秀さとは、全く別の次元の話として。
なにしろ、金融政策に大した意味はない、と考えておられる方が金融政策をされているのだから、効き目があるわけがない。
経済がよくなるかどうかは政治の仕事であり、金融政策にできることはせいぜい時間稼ぎ、と考えておられる方が指揮をとられているのだから、組織の士気が上がるはずはない。

正直で優秀で、人間として尊敬できる方なのだと思う。
しかし、中央銀行のトップに向いていたかどうかというと全く別の話である。
改めてそれがわかった。
人事の怖さ、ねじれの危うさも改めて感じた。

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