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映画評 「ひらいて」 ~奇跡的に誕生した きらめきに溢れた作品~ [映画評]

映画には、いろいろな思いが込められていてほしい。
ビジネスとして成り立たせなければならないので、
やりたくないことをやらなければならなかったり、
やるべきことをやらなかったり、
といったことも避けられないとは思うが、
そもそもの出発点は作り手の気持ちであってほしい。

その点、この映画を撮った首藤凛監督(脚本も)さんには、
ありあまるほどのモチベーションがある。
なにしろ首藤監督のツイッターにはこう書かれている。
「綿矢りささんの『ひらいて』を初めて読んだ17歳の冬から、この映画を撮るために生きてきました」

映画に携わりたいと思ったきっかけがこの小説だというのだから、
人生の目的が本作の映画化にあったというのだから、
思い入れはとんでもない。
彼女にとって、商業公開される最初の長編が本作ということだが、
まさに夢がかなったと言ってもいいだろう。

思い入れ、というのは往々にして空回りしてしまうものだが、
この作品では、見事に結実している。
監督のあふれる思いに応え、若手の俳優さんたちが見事にはまった。

主人公は、皆がうらやむ存在として描かれる女子高生。
しかし、彼女は満たされているわけではなく、欲しいものはどんな手を使ってでも手に入れようとする。
主人公なのに振る舞いはまさに悪役であり、観ている側はその行動にイライラさせられる。
その意味では、不快な時間が過ぎていくのだが、登場人物に感情移入できている証拠とも言える。

主人公に対するのは、真逆の性格の男女。
二人はすべてを受け入れているように見える。
傍若無人な主人公に振り回されるのだが、やられっぱなしではなく、ピシッと言うことは言う。
そのシーンは、力道山の空手チョップ的な快感がある。
しかし、「ひらいて」はいない。
誰がいつ、どんな形で「ひらいて」いくのか。
びっくりさせられるシーンもある。

難しい主人公を演じられたのは、山田杏奈さん。
「ジオラマボーイ・パノラマガール」でも印象的な演技を披露されたが、本作ではさらに鮮烈。
突飛な主人公の行動については、山田さん自体「理解しがたい」との感想を持たれたそうだが、
見事に咀嚼されて、これしかないという像を描かれた。
主人公に翻弄される病弱な、しかし芯の強い女の子を芋生悠さんが演じる。
透明感の強い役柄が芋生さんにぴったりだった。
二人に思われる男子生徒にジャニーズの作間龍斗さん。
いいキャスティングだったと思う。

「ルパンの娘」やら「CUBE」やらを観た後だったこともあり、本作のまっすぐさが胸に響いた。
この映画が作られたこと自体が一つの奇跡であり、
その奇跡に観客として立ち会えたことが光栄であった。
まっすぐ過ぎてちょっとしんどい感もなくはなく、誰もが楽しめる映画ではないかもしれないが、
なんとか大勢の人にご覧いただきたい。
今年の秋はこの一本、と言いたくなる、きらめきに満ちた作品である。

いつか首藤凛監督には、
ある小説を読んで衝撃を受けた女子高生が、その小説を映画にすることを人生の目標にし、
悪戦苦闘しながら夢の実現に進んでいく、
という映画を作っていただきたい。
観たいから。

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