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映画評 「そして、バトンは渡された」 [映画評]

原作は、2019年に本屋大賞を受賞した瀬尾まいこさんの同名小説。
瀬尾さんの作品は本作を含めて何冊か読んだのだが、
私と相性がよく、どの本もすっと入り込むことができ、本作も胸にしみた。

私は、原作と映画は別物と理解しているつもりである。
いろいろな作品(漫画やら小説やらゲームやら)の映画化に際し、
原作ファンが嫌悪に近い感情を表明されることがあるが、
別物と考えて、受け入れる派である。
本作も、原作とは大きく変わっていて、しかも根幹にかかわる部分だった感もあるが、
別物と考えれば、受け入れられる。
というか、そうするしかない。

ただ、ちょっと勘弁してほしいと思ったのは映画の宣伝文句、こんな感じである。
「この感動は、一生忘れない。」
「あなたはきっと、もう一度見て、もっと泣く。」。
邦画は選り好みせず観ようと思っている私はどうせ観るから関係ないのだが、
こんなに押し付けられると、観ようかどうか迷っている人からすればかえって白けてしまうのではないかと心配になる。

この親があってこの子あり、というが、
この宣伝文句があってこの映画あり、という感じ。
いい映画を届ける、というより、とにかく泣かせたら勝ち、みたいな価値観。
映画作りには向いていない。

映画ファンとしては、原作ファンの皆さんにも劇場に足を運んでいただきたいが、
原作とは別物であることは十分に覚悟しておいてもらいたい。
原作の大切な部分が失われていても、別物なのだからと理解してもらいたい。
ただ、「バトン」が見えなかった・感じられなかったのは残念だった。

主演は永野芽郁さん。
お父さん役に田中圭さん、お母さん役に石原さとみさん。
役者さんがどうというより、お母さんが飛ばし過ぎ。

メガホンは、前田哲監督。
前田監督作品は、全く同じタイミングで「老後の資金がありません!」も公開されている。
コロナの影響か何かでたまたま同じ時期の公開になったのかもしれないが、
いかがなものであろうか。
「老後」も「バトン」もわかりやすい演出ではあったが、残念ながら私には刺さらず。
以前撮られた「こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話」はよかったのだが。

「そして、バトンは渡された」は、もったいない作品。
いい原作の映画化なのに、活かしきれているとは思えなかった。
この原作の映画化は本作以外では永遠になされないだろうと考えると、本当にもったいない。

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