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映画評 「ボストン市庁舎」 [映画評]

『ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス』などで知られるフレデリック・ワイズマン監督が、
ボストンの市役所の仕事ぶりに迫るドキュメンタリー。
四時間半という、ポンポさん(※)なら絶対に許さない長尺であるが、公務員界隈を中心にちょっとした話題になっている。
その長さには腰が引けたが、仕事柄もあって思い切って観に行った。

本作に感銘を受けられる公務員の方も少なくないと思うが、残念ながら私にはピンと来ず。
それどころか・・・。
気を悪くされる方もおられるかもしれないが、映画ファンとして自分に嘘をつきたくもないので、
正直に感想を書いておこうと思う。

ちなみに、日本経済新聞の「シネマ万華鏡」は本作を絶賛している。
曰く
「4時間34分という長尺だが、退屈している暇がない」
「ミクロがマクロに通じる巧みな構成はまるで魔術のよう」
「本年屈指の収穫」
といった具合。
当然ながら、観る人によって評価も変わる。

私も、もちろん楽しみにして観に行ったのだが、ううむ。
つい寝てしまった映画、というのはいくつもあるのだが、
もう寝ちゃお、と思った映画は初めてかもしれない。
率直に言って、少しではなく、非常に退屈だったのである。
しかし、1時間寝ても、まだ3時間半もある。
2時間寝ても、まだ2時間半・・・。

ドキュメンタリー映画にも、大雑把なストーリー的なものが存在する作品もあるが、本作にはない。
ボストン市が関わるいろいろな場面が次々に映し出されるが、
何かに収束していくということはない。
序盤の伏線が回収されることもない。
これを、日経映画評は「短いエピソードを積み上げてモザイクを作り、それで巨大な壁画を描きだす」と称賛するのだが、
悪く言えば、脈絡のないブツ切れである。

いろいろなところで、市の職員と住民が議論を交わすシーンがある。
言い方や表現は生々しく、自己主張も旺盛である。
丁々発止やり取りする姿は、さすがに言葉の国アメリカであると思う。
その様子を見て、
「民主主義が機能している」
と感慨を持たれる方もおられるようだ。
ただ、住民との意見交換は、日本の自治体でも普通に行われている。
行われているところもある、ではなく、どこでも行われている。
そこで激しい言葉が出されることもある。
問題は、その先である。
住民からの主張を聴く場を、いわゆる「あく抜き」の場としてのみ設定したのか、
それとも真摯に受け止めて、住民の声を実現したのか。
また、実現するためにどれだけの汗が流されたのか。
この映画ではそこは描かれない。
表面だけである。

他のシーンも、「その先」が描かれない。
ごくとっかかりの部分だけ。
この映画では、
先端で末端で、知恵を絞り、怒られ、怒鳴られ、呆れられ、
それでも汗をかいて、少しでも物事を前に進めようとする職員たちの様子は描かれない。
表層のみ掬われているように感じた。
その奥が見たかった。

アンチトランプ的なニュアンスから、アンチテーゼとして撮られた要素が強いのだろうと思う。
市民に寄り添う市長のメッセージは、説得力があり、力強い。
しかし、私が見たかったのは演説のうまさではなく、
生身の職員の苦渋の決断や、報われないかもしれないなかでの地道な努力である。
それらはこの映画にはない。
綺麗な部分だけが延々と流される。
ボストン市長のプロモーションビデオとして観れば、よくできているのかもしれない。

もちろん、興味深いシーンや、日本との違いに驚愕する場面もある。
ただ、それらはもっともっともっともっと短い時間にまとめることができると感じた。
30分くらいにまとめていただけるとありがたかった。

「ボストン市庁舎」は、公務員より、そうでない人が観た方がいいような気がする。
公務員が観ると、「で?」という気になってしまうのではないだろうか。
公務員でない方が観ると、「いろいろやってるんだ」「役所も大変だな」という気になって下さるかもしれない。
とまあ、いろいろ書いてしまったが、もちろん公務員の方がご覧になるのもよろしいかと。
時間(4時間半)とお金(特別料金2,800円、市役所職員割2,200円)の都合のつく方は、
話のタネにもなりますのでご鑑賞ください。

※ポンポさん:奇跡の傑作アニメ映画「映画大好きポンポさん」の主人公。映画プロデューサーで、長い映画を嫌悪している。

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