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映画評 「梅切らぬバカ」 [映画評]

タイトルは、「桜切る馬鹿、梅切らぬ馬鹿」ということわざから来ている。
意味は、樹木の剪定に当たっては、それぞれの木の特性に従って対処する必要があるように、
人との関わりにおいても、相手の性格や特徴を理解しようと向き合うことが大事である、
といった感じ。
自閉症の50歳の息子と、ともに暮らす母の生活を静かに描く作品であるが、
普通に暮らしていこうとしても、いろいろなところで軋轢が生まれてしまう様子や、
物事に応じてふんわり対応してしまうことの難しさなどが、タイトルに込められている。

母親役を加賀まりこさんが演じる。
なんでも、54年ぶりの主演なのだという。
「麻雀放浪記」での好演や、「THEわれめDEポン」での活躍から、
麻雀のイメージが強くなっているが、本作では強くて弱いお母さんを素敵に演じられていた。
自閉症の息子役を、ドランクドラゴンの塚地武雅さんが演じる。
裸の大将をほうふつとさせるものがあるが、本作ではより繊細な演技を披露されていた。
塚地さんの演技が映画を引っ張ったと言っていいと思う。

映画は、派手な立ち回りもなく、小さな波乱を盛り込みつつ静かに進む。
テーマはそれなりに重いものなのだが、それほど深入りせず、やんわり描いている。
突っ込み不足の面はあり、
ステレオタイプに流れてしまった面もあり、
なんだか宙ぶらりんで終わった感もあるのだが、
これはこれでよいようにも思えた。
泣かせにもかからず、
説教臭くもならず。

「梅切らぬ馬鹿」ということわざは、梅を成長させるためには余分なものを切ってしまった方がいいというところから来ている。
親子が暮らす家にも梅が植えてあり、それが隣家にまで伸びて迷惑をかけている。
もちろん、この映画が自閉症の主人公を余分なものとして描いているわけではない。
タイトルの意味については、観た人がどう受け止めるかによって大きく変わってきそうだ。

「梅切らぬバカ」は、文部省特選的作品。
ちゃんとし過ぎてワクワクはしないが、こういう映画もあっていい。
障害者施設と地域住民の軋轢など、
もう少し切り込めばさらに深みが増したとは思うのだが、
そこまではやらないのがこの映画なのだろう。

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